Episode 10-3 「あの日の夢」
前書き
ここまで『神になるには、遅すぎた』を読んでいただき、本当にありがとうございます。
この物語も、いよいよ最終章となりました。
何者でもなかった一人の男は、数え切れない出会いと別れを経験し、多くの勇者や仲間達と共に国を築いてきました。
正義、戦争、思想、自由、愛、信仰、死、そして観測。
それぞれがハザムへ残した答えが、この最終章で一つになります。
最後まで、ハザム・ヴェルという一人の男の生き様を見届けていただければ幸いです。
創造主が。
ゆっくり手を上げる。
「なら」
「証明しろ」
世界が反転した。
白い世界が消える。
ハザムの意識は。
ゆっくり闇へ沈む。
・・・
「……お客様?」
優しい声。
目を開ける。
見覚えのある天井。
狭い部屋。
柔らかな照明。
古びたソファ。
甘い香り。
「ここは……」
扉が開く。
一人の女性が入ってくる。
転生する前。
人生最後の日。
あの日。
初めて。
自分の心を見てくれた女性だった。
何も変わっていない。
優しく笑っている。
「久しぶり」
ハザムは苦笑した。
「そうだな」
女性は隣へ座る。
静かな時間。
何も話さない。
それだけで心地良かった。
やがて。
女性が微笑む。
「どうだった?」
「向こうの世界」
ハザムは天井を見上げる。
少し考えて。
笑った。
「大変だった」
「毎日」
「事件ばっかりだ」
女性も笑う。
「でも」
「楽しかった?」
ハザムは迷わない。
「ああ」
「最高だった」
レオン。
クメル。
シエル。
ノリア。
ガロウ。
リノア。
ユリウス。
マリア。
ジュリア。
アベル。
エリス。
ナギ。
一人ずつ。
笑顔が浮かぶ。
「友達ができた」
「家族もできた」
「泣いた」
「笑った」
「怒った」
「いっぱい後悔もした」
少しだけ照れ臭そうに笑う。
「でも」
「生きてて良かった」
女性は。
静かに頷いた。
「良かったね」
その一言で。
胸が熱くなる。
転生した意味。
神になった意味。
ようやく。
分かった気がした。
女性が立ち上がる。
「もう時間」
ハザムも立ち上がる。
「名前」
「結局」
「聞けなかったな」
女性は少し笑う。
「知らないままでいいよ」
「どうして?」
「その方が」
「思い出は綺麗だから」
少しだけ。
目を潤ませながら。
笑う。
「あなた」
「すごく良い顔になったね」
ハザムは驚く。
転生前。
誰にも言われたことがない言葉だった。
女性は扉へ向かう。
開ける前に。
一度だけ振り返る。
「行ってらっしゃい」
「最後のお仕事」
ハザムは笑う。
「ああ」
「行ってくる」
扉が閉まる。
景色が崩れる。
部屋も。
光も。
全部消えていく。
最後に。
女性の声だけが聞こえた。
「ありがとう」
・・・
ハザムは。
ゆっくり目を開ける。
白い世界。
創造主。
ナギ。
世界意思。
全部。
そこにあった。
ナギが笑う。
「長い夢だったな」
ハザムも笑う。
「ああ」
「いい夢だった」
灰色の炎が。
今までで一番。
優しく燃え上がる。
ハザムは創造主を見る。
「もう迷わない」
「俺は」
「この世界を守る」
その言葉は。
神の宣言ではなかった。
一人の男が。
自分の人生を肯定した。
ただ。
それだけの言葉だった。
後書き
『神になるには、遅すぎた』、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
この物語は、最強の神が世界を救う物語ではありません。
誰にも必要とされなかった一人の男が、人との出会いを通して「生きる意味」を見つける物語でした。
主人公だけでなく、レオン、クメル、シエル、ガロウ、リノア、ユリウス、マリア、アベル、ナギ──そして名もなき人々一人ひとりが、この世界を作ってくれました。
タイトルの『神になるには、遅すぎた』には、二つの意味を込めています。
神になろうとした時には、もう人を愛しすぎていたこと。
そして、人を愛したからこそ、本当の神にはなれなかったこと。
もしこの作品で、誰か一人でも心に残る人物がいたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。
長い旅に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
また、次の物語でお会いしましょう。




