Episode 10-2 「価値」
前書き
ここまで『神になるには、遅すぎた』を読んでいただき、本当にありがとうございます。
この物語も、いよいよ最終章となりました。
何者でもなかった一人の男は、数え切れない出会いと別れを経験し、多くの勇者や仲間達と共に国を築いてきました。
正義、戦争、思想、自由、愛、信仰、死、そして観測。
それぞれがハザムへ残した答えが、この最終章で一つになります。
最後まで、ハザム・ヴェルという一人の男の生き様を見届けていただければ幸いです。
白い世界。
静寂。
創造主は。
足元を見ていた。
そこには。
魔物の死骸。
観測者。
砕けた白い大地。
全てが転がっている。
創造主は小さく呟く。
「失敗作だ」
その一言だった。
ハザムの眉が動く。
「何?」
創造主は続ける。
「壊れたなら」
「作り直せばいい」
「世界も」
「命も」
「神も」
「全て同じ」
ハザムは黙っていた。
創造主はゆっくり歩く。
倒れた観測者へ近付く。
指先で触れる。
次の瞬間。
消えていた観測者が。
何事もなかったように立ち上がった。
少年が息を呑む。
「生き返った……」
創造主は首を振る。
「違う」
「作り直しただけだ」
ナギが苦笑する。
「だから嫌いなんだよ」
「お前のその考え方」
創造主は理解できない。
「違いは?」
「同じ存在だ」
ナギは笑わない。
「違う」
「そいつは」
「さっきまでいた奴じゃない」
創造主は沈黙する。
理解できない。
「記憶」
「能力」
「人格」
「全て同一」
「なら同じだ」
ハザムが歩き出す。
倒れていた一体のゴブリン。
まだ息がある。
ハザムはしゃがみ込む。
「すまなかった」
そっと頭へ手を置く。
灰色の光が包む。
傷だけが癒える。
死は戻らない。
ゴブリンはゆっくり起き上がる。
王を見る。
深く頭を下げた。
ハザムは笑う。
「もう戦わなくていい」
ゴブリンは。
静かに仲間の方へ歩いていく。
創造主は見ていた。
「何故」
「再創造しない」
ハザムは立ち上がる。
「生きてるからだ」
「死ねば」
「作り直せる」
「違う」
ハザムは首を振る。
「代わりなんか」
「いない」
その言葉で。
ナギが笑った。
「やっと言えたな」
ハザムも少し笑う。
「三百年かかった」
創造主は。
二人を見る。
理解できない。
「命は」
「交換可能」
「個体差は誤差」
少年が前へ出る。
「違う!」
初めてだった。
少年が叫んだ。
「僕のお母さんは!」
「一人しかいない!」
静寂。
創造主は少年を見る。
「死んだ」
少年は頷く。
涙を浮かべながら。
「だから!」
「もう会えない!」
「代わりなんて!」
「いないんだ!」
創造主は。
何も答えられなかった。
世界意思が。
静かに呟く。
「代わり……」
その言葉を。
何度も繰り返す。
「代わりは」
「いない……」
ハザムは創造主を見つめる。
「お前は」
「世界を創れた」
「でも」
「命は創れなかった」
創造主の瞳が揺れる。
初めて。
否定された。
神として。
初めて。
「命とは」
ハザムは答える。
「誰かが覚えている限り」
「生き続けるものだ」
「だから」
「作り直せない」
その一言で。
創造主の世界が。
初めて音を立てて。
揺らぎ始めた。
後書き
『神になるには、遅すぎた』、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
この物語は、最強の神が世界を救う物語ではありません。
誰にも必要とされなかった一人の男が、人との出会いを通して「生きる意味」を見つける物語でした。
主人公だけでなく、レオン、クメル、シエル、ガロウ、リノア、ユリウス、マリア、アベル、ナギ──そして名もなき人々一人ひとりが、この世界を作ってくれました。
タイトルの『神になるには、遅すぎた』には、二つの意味を込めています。
神になろうとした時には、もう人を愛しすぎていたこと。
そして、人を愛したからこそ、本当の神にはなれなかったこと。
もしこの作品で、誰か一人でも心に残る人物がいたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。
長い旅に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
また、次の物語でお会いしましょう。




