最終章 Episode 10-1
前書き
ここまで『神になるには、遅すぎた』を読んでいただき、本当にありがとうございます。
この物語も、いよいよ最終章となりました。
何者でもなかった一人の男は、数え切れない出会いと別れを経験し、多くの勇者や仲間達と共に国を築いてきました。
正義、戦争、思想、自由、愛、信仰、死、そして観測。
それぞれがハザムへ残した答えが、この最終章で一つになります。
最後まで、ハザム・ヴェルという一人の男の生き様を見届けていただければ幸いです。
「創造主」
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白い世界。
黒い腕が。
ゆっくりと裂け目から伸びる。
誰も動けない。
世界意思ですら。
その腕を見た瞬間。
膝をついた。
「創造主……」
震える声だった。
ハザムは眉をひそめる。
「お前が恐れる相手か」
返事はない。
黒い腕は。
静かに世界を掴む。
握る。
ミシッ……
白い世界全体が軋んだ。
観測者達が。
一斉に消えていく。
悲鳴もない。
抵抗もない。
ただ。
存在そのものが消滅していく。
少年は震えた。
「な……何が起きてるの……」
ナギは剣を握る。
その表情から。
いつもの笑みは消えていた。
「ハザム」
「逃げろ」
ハザムは笑う。
「断る」
「相手が悪い」
「俺よりか?」
ナギは言葉を失う。
少しだけ笑う。
「……違ぇな」
黒い裂け目が。
さらに広がる。
腕。
肩。
胸。
ゆっくりと。
巨大な影が姿を現す。
だが。
顔だけは見えない。
黒い霧が覆っていた。
声だけが響く。
「久しいな」
その声は。
男とも。
女とも。
老人とも。
子供とも違う。
聞いた者それぞれに。
違う声で聞こえる。
創造主は。
世界意思を見下ろす。
「よく管理した」
「役目は終わりだ」
世界意思は震えていた。
「申し訳……ありません」
「対象世界の管理に失敗しました」
創造主は答えない。
ただ。
右手を軽く振る。
その瞬間。
世界意思の左腕が。
音もなく消えた。
少年が叫ぶ。
「やめろ!」
世界意思は動かない。
抵抗もしない。
「これが」
「罰」
ハザムが前へ出る。
「おい」
創造主の視線が。
初めてハザムへ向く。
「誰だ」
静かな一言。
ハザムは答える。
「ハザム・ヴェル」
「灰神皇だ」
創造主は。
少しだけ首を傾げた。
「知らぬ」
その一言だけだった。
ハザムは笑う。
「だろうな」
「なら覚えろ」
灰色の炎が。
静かに燃え上がる。
創造主は。
炎を一瞥する。
興味もなく。
「小さいな」
たった四文字。
その言葉だけで。
灰色の炎が。
一瞬だけ。
消えかけた。
ナギの顔色が変わる。
「まずい!」
創造主は。
何もしていない。
ただ。
存在しただけ。
それだけで。
世界法則そのものが。
塗り替えられていた。
「お前が」
創造主はハザムを見る。
「新しい神か」
ハザムは答える。
「違う」
少しだけ笑う。
「人間だ」
創造主は。
初めて。
笑った。
嘲笑だった。
「人間」
「その程度が」
「神を名乗るか」
ハザムは首を振る。
「誰も」
「神になりたくてなったわけじゃない」
創造主は黙る。
ハザムは一歩踏み出した。
「俺は」
「守りたかっただけだ」
「仲間を」
「国を」
「世界を」
創造主は静かに答える。
「壊せば」
「また作ればいい」
その一言で。
ハザムの表情から笑みが消えた。
ナギも。
世界意思も。
少年も。
誰一人として言葉を発しない。
長い沈黙。
やがて。
ハザムは静かに呟いた。
「……そうか」
灰色の炎が。
ゆっくりと。
世界全体へ広がっていく。
その瞳には。
怒りはなかった。
ただ。
決意だけが宿っていた。
「なら」
「お前とは」
「最後まで分かり合えない」
創造主は。
初めて。
ハザムを敵として認識した。
白い世界と。
灰色の世界。
二つの世界が。
静かにぶつかり合う。
長い旅の終着点。
最後の戦いが。
今、始まろうとしていた。
後書き
『神になるには、遅すぎた』、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
この物語は、最強の神が世界を救う物語ではありません。
誰にも必要とされなかった一人の男が、人との出会いを通して「生きる意味」を見つける物語でした。
主人公だけでなく、レオン、クメル、シエル、ガロウ、リノア、ユリウス、マリア、アベル、ナギ──そして名もなき人々一人ひとりが、この世界を作ってくれました。
タイトルの『神になるには、遅すぎた』には、二つの意味を込めています。
神になろうとした時には、もう人を愛しすぎていたこと。
そして、人を愛したからこそ、本当の神にはなれなかったこと。
もしこの作品で、誰か一人でも心に残る人物がいたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。
長い旅に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
また、次の物語でお会いしましょう。




