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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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Episode 9-2 「拒絶」

前書き

第九章「神殺し」。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。

建国、戦争、思想、自由、愛、信仰、死、観測。

ハザムは七人の勇者と一人の観測者から、多くの答えを受け取りました。

そして物語は、いよいよ最終局面へ入ります。

この章では、これまで語られなかった「世界の真実」と、「神」と「勇者」の本当の意味が明らかになります。

ここから先は、ハザムだけでなく、この物語そのものの答えへ向かう旅です。

最後まで見届けていただければ幸いです。


白い世界。


時間も。


空も。


地面もない。


その中心で。


ナギは剣を握っていた。


古びた剣。


刃こぼれだらけ。


何百年も前。


自分で捨てたはずの剣。


世界意思が告げる。


「勇者ナギ」


「最終任務を遂行せよ」


ナギは剣を見つめる。


そして。


静かに答えた。


「断る」


白い世界が揺れる。


観測者達が。


一斉にナギを見る。


「命令拒否を確認」


「勇者権限を停止」


「対象を再設定」


ナギは眉をひそめた。


「再設定?」


世界意思は。


感情のない声で続ける。


「神を殺す勇者は」


「お前である必要はない」


白い空間に。


一つ。


光が生まれる。


次に。


二つ。


三つ。


数え切れないほど。


光が増えていく。


それぞれの中に。


人影が浮かんでいた。


剣を持つ者。


槍を持つ者。


弓を持つ者。


祈る者。


拳を握る者。


皆。


勇者。


ナギは目を細める。


「……随分集めたな」


「世界は常に」


「神を殺す手段を用意する」


「神が生まれるたび」


「勇者を送る」


「神が抗うたび」


「次の勇者を送る」


ナギは鼻で笑った。


「使い捨てか」


「役割である」


「死んでも?」


「役割である」


「壊れても?」


「役割である」


「何も知らずに?」


「役割である」


ナギの笑みが消える。


「それを」


「勇者って呼ぶのか」


返事はない。


必要のない問いだと。


世界は判断した。


光の中。


一人の少年が目を開く。


まだ若い。


十代半ば。


震える手で。


剣を握っていた。


自分がどこにいるのか。


なぜ呼ばれたのか。


何も分かっていない。


「ここは……」


少年の声。


怯えている。


「僕は……」


世界意思が告げる。


「勇者よ」


「神を殺せ」


少年は息を呑む。


「神……?」


「灰神皇ハザム・ヴェル」


空間に。


ハザムの姿が映し出される。


玉座。


白騎士。


黒騎士。


紫衣卿。


白銀の詩唱卿。


その中央。


静かに座る灰神皇。


少年は。


その姿を見ただけで。


足を震わせた。


「無理だ……」


「僕には……」


「拒否権は存在しない」


世界意思の声。


少年の手が。


勝手に動く。


剣を握らされる。


身体が。


光に包まれていく。


「やめて」


「僕は勇者なんかじゃない」


「帰して」


誰も答えない。


ナギだけが。


その声を聞いていた。


「止めろ」


世界意思。


「命令を遂行する」


「止めろと言ってる」


「対象勇者を世界へ転送する」


少年の姿が。


薄れていく。


「嫌だ!」


「助けて!」


ナギは剣を振るった。


古びた刃。


何の力もないはずの一撃。


白い光が。


真っ二つに裂けた。


少年を包んでいた光が消える。


身体が床へ落ちる。


床など無いはずの場所に。


少年は座り込んだ。


息を荒らし。


泣いていた。


観測者達がざわめく。


「勇者ナギ」


「世界命令への妨害を確認」


ナギは少年の前に立つ。


庇うように。


剣を構える。


「こいつは勇者じゃない」


「選定は完了している」


「本人が嫌だと言ってる」


「意思は不要」


その言葉に。


ナギはゆっくり顔を上げた。


「そうか」


静かな声。


だが。


白い世界が。


僅かに軋んだ。


「お前達は」


「ずっとそうだったんだな」


レオンも。


クメルも。


セイジも。


ガロウも。


ユリウスも。


マリアも。


アベルも。


皆。


選ばれた。


送り込まれた。


戦わされた。


傷つけられた。


そして。


答えを残して。


死んでいった。


世界は。


それをただ。


役割と呼んだ。


ナギの手に。


力が入る。


「勇者は道具じゃない」


「勇者とは役割である」


「違う」


ナギは言い切った。


「勇者は」


「帰りたいって泣く奴だ」


「怖くて震える奴だ」


「それでも」


「誰かを助けようとする奴だ」


少年が。


顔を上げる。


ナギは振り返らない。


「勇気ってのは」


「命令されて出すもんじゃない」


世界意思。


「定義を拒否」


「勇者ナギを敵性存在へ変更」


白い空間に。


無数の刃が現れる。


全て。


ナギへ向けられていた。


少年が震える。


「逃げて……」


ナギは笑う。


「誰が?」


「あなたが」


「俺はいい」


「でも……」


「安心しろ」


ナギは剣を肩へ乗せる。


いつもの。


気の抜けた姿。


「こう見えて」


少しだけ笑う。


「昔は勇者だったらしい」


刃が降り注ぐ。


ナギは。


一歩前へ出た。


白い世界に。


初めて。


剣戟の音が響いた。

後書き

第九章が始まりました。

タイトルは「神殺し」。

ですが、この章は単純な「神を倒す物語」ではありません。

神とは何か。

勇者とは何か。

そして、人はなぜ誰かを救おうとするのか。

これまで積み重ねてきた全ての章が、この章へと繋がっています。

次章はいよいよ最終章です。

長い旅も、あと少し。

最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

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