Episode 8-9 「約束」
前書き
ここまで『神になるには、遅すぎた』を読んでいただき、ありがとうございます。
第八章のテーマは――**「観測」**です。
建国、戦争、思想、自由、愛、信仰、死。
ハザムは多くの答えを得てきました。
そして今回は、今まで誰よりも近くで、誰よりも遠くから彼を見続けてきた男の物語になります。
ゆっくりと、お付き合いいただければ幸いです。
夜。
帝都。
石畳を歩く。
ナギは一人だった。
風は穏やか。
人々は家路につく。
酒場から笑い声が漏れる。
子どもを抱く母親。
寄り添う夫婦。
友人同士で肩を組む若者達。
ナギは立ち止まる。
「……いい景色だ」
何百年も前。
こんな帝都ではなかった。
飢え。
争い。
絶望。
それでも。
皆で歩いてきた。
レオンが道を切り開き。
シエルが国を整え。
ノリアが人々を導き。
マリアが未来を育てた。
ガロウは。
誰も見ない闇を引き受けた。
そして。
ハザムは。
誰よりも前を歩いた。
「あいつも」
「よく頑張った」
小さく笑う。
その時だった。
空気が凍る。
夜の音が。
消えた。
笑い声も。
風の音も。
虫の声さえ。
世界から切り離されたように。
静寂。
「来たか」
ナギは振り返らない。
白い世界。
人も。
空も。
街も。
色を失っていく。
その中で。
一つの声だけが響く。
「観測者ナギ」
「最終勧告を行う」
ナギはため息をつく。
「律儀だな」
「対象ハザム・ヴェルとの接触を断て」
「観測任務へ復帰せよ」
「拒否した場合」
「観測権限を剥奪」
「存在を消去する」
沈黙。
ナギは空を見上げた。
「断る」
迷いは無い。
「理由を述べよ」
少しだけ考える。
そして。
笑った。
「約束したからだ」
「約束?」
「ああ」
「最後まで見届けるってな」
また沈黙。
世界は。
その答えを理解できない。
「理解不能」
「だろうな」
ナギは肩をすくめる。
「約束ってのは」
「損得で守るもんじゃない」
「守りたいから守るんだ」
静かな声だった。
「観測者にその概念は不要」
「そうか」
ナギは一歩踏み出す。
「だから、お前達は友達ができない」
世界が。
初めて揺れた。
ほんの僅か。
感情とも。
怒りとも違う。
理解できない何か。
「最終勧告を終了」
「次回接触時」
「処分を執行する」
白い世界が消える。
夜が戻る。
帝都の灯り。
人々の笑い声。
何事もなかったように。
ナギは苦笑する。
「……面倒になってきたな」
空を見上げる。
星が瞬く。
「でも」
「約束は約束だ」
そう呟くと。
またいつものように歩き出した。
友のいる王城へ向かって。
後書き
第八章が始まりました。
これまでナギは、どこか掴みどころのない旅人として描いてきましたが、この章では彼自身にスポットが当たります。
なぜ彼は何百年もの間、ハザムの隣にいたのか。
何を見て、何を考え、そして何を選ぶのか。
今まで何気なく交わしてきた会話にも、少しずつ意味が生まれていきます。
この章は派手な戦いよりも、「世界を見届ける者」の視点を大切に描いていく予定です。
最後まで見届けていただけると嬉しいです。




