Episode 8-7 「最初の介入」
前書き
ここまで『神になるには、遅すぎた』を読んでいただき、ありがとうございます。
第八章のテーマは――**「観測」**です。
建国、戦争、思想、自由、愛、信仰、死。
ハザムは多くの答えを得てきました。
そして今回は、今まで誰よりも近くで、誰よりも遠くから彼を見続けてきた男の物語になります。
ゆっくりと、お付き合いいただければ幸いです。
夜。
王城。
灰神皇執務室。
ハザムは一人。
窓の外を眺めていた。
コンコン。
返事を待たず。
扉が開く。
「よう」
ナギだった。
「珍しいな」
「夜に来るなんて」
ナギは苦笑する。
「昼は仕事だった」
「図書館か」
「違う」
その一言で。
部屋の空気が変わる。
ハザムは椅子から立ち上がる。
「……何があった」
ナギは窓へ歩く。
帝都の夜景を眺める。
「会ってきた」
「誰に」
少しだけ沈黙。
「世界」
ハザムは何も言わない。
驚かない。
笑わない。
ただ。
静かに聞いていた。
「やっぱり」
「俺を消すらしい」
「そうか」
「随分あっさりしてるな」
「お前が冗談で言う顔じゃない」
ナギは笑う。
「長い付き合いだからな」
二人の間に沈黙が流れる。
やがて。
ハザムが口を開いた。
「俺も行こう」
「駄目だ」
即答だった。
「これは俺の問題だ」
「違う」
ハザムも譲らない。
「友達の問題だ」
ナギは目を閉じる。
困ったように笑う。
「だからだよ」
「巻き込みたくない」
ハザムは机にもたれる。
「今さらだ」
建国。
戦争。
革命。
信仰。
死。
どれも。
二人で乗り越えてきた。
「今さら一つ増えたところで」
「変わらん」
ナギは吹き出した。
「本当に変わらねぇな」
「お互い様だ」
笑う。
ほんの少しだけ。
昔に戻ったようだった。
その時。
部屋の空気が軋む。
パキッ。
硝子に一本の亀裂が走る。
外力ではない。
世界そのものが。
拒絶している。
ナギは静かに振り返る。
「……始まった」
ハザムも窓を見る。
夜空。
星は変わらない。
だが。
見えない。
何かがいる。
ハザムは低く呟く。
「見えている」
「俺達を」
ナギは頷く。
「ああ」
「もう」
「観測は始まってる」
二人は並んで夜空を見上げた。
長い旅路を共に歩んだ友人同士。
その沈黙だけで。
互いの覚悟は伝わっていた。
そして。
世界は初めて。
灰神皇ハザム・ヴェルへ。
静かに視線を向けた。
後書き
第八章が始まりました。
これまでナギは、どこか掴みどころのない旅人として描いてきましたが、この章では彼自身にスポットが当たります。
なぜ彼は何百年もの間、ハザムの隣にいたのか。
何を見て、何を考え、そして何を選ぶのか。
今まで何気なく交わしてきた会話にも、少しずつ意味が生まれていきます。
この章は派手な戦いよりも、「世界を見届ける者」の視点を大切に描いていく予定です。
最後まで見届けていただけると嬉しいです。




