Episode 8-6 「世界の外」
前書き
ここまで『神になるには、遅すぎた』を読んでいただき、ありがとうございます。
第八章のテーマは――**「観測」**です。
建国、戦争、思想、自由、愛、信仰、死。
ハザムは多くの答えを得てきました。
そして今回は、今まで誰よりも近くで、誰よりも遠くから彼を見続けてきた男の物語になります。
ゆっくりと、お付き合いいただければ幸いです。
夜。
帝都。
人通りは少ない。
街灯だけが石畳を照らしていた。
ナギは一人歩く。
目的はない。
散歩。
何百年も続けてきた日課。
「静かだな」
誰へともなく呟く。
返事はない。
いや。
今日は違った。
「……ナギ」
声だった。
男でも。
女でもない。
老いても。
若くもない。
世界そのものが話しているような声。
ナギは立ち止まらない。
「久しぶりだな」
「三百年ぶりか」
沈黙。
「観測者ナギ」
「報告義務違反」
「世界への過度な介入」
「対象ハザム・ヴェルとの継続的接触」
「処分対象と認定する」
ナギは苦笑した。
「相変わらず堅いな」
「規則は規則だ」
「俺も仕事しただけだ」
「観測者は記録する者」
「導く者ではない」
ナギは足を止めた。
夜空を見上げる。
星が綺麗だった。
「知ってる」
「ならば何故」
少しだけ。
ナギが笑う。
「あいつが」
「泣いてたからだ」
沈黙。
「一人だったからだ」
また沈黙。
「友達になった」
風が吹く。
「それが違反だと言うなら」
「俺は何百年前から違反してる」
空気が震える。
「理解不能」
「そうだろうな」
ナギは笑う。
「世界は人間を知ってる」
「でも」
「友達は知らない」
長い沈黙。
やがて。
声が消える。
最後に。
一言だけ。
「最終観測を開始する」
静寂。
帝都には。
何も起こらない。
誰も気付かない。
ナギだけが。
静かに息を吐く。
「最終観測、か」
苦笑する。
「大袈裟なんだよ」
ポケットへ手を入れる。
空を見上げる。
「あいつには」
「まだ言うなよ」
返事はない。
もう。
誰もいない。
ナギは歩き出す。
王城とは反対方向へ。
昔からそうだった。
考え事をするときは。
一人で歩く。
何百年経っても。
その癖だけは変わらなかった。
夜空には。
無数の星が輝いていた。
その中の一つだけが。
まるで誰かの瞳のように。
静かに。
ナギを見つめ続けていた。
後書き
第八章が始まりました。
これまでナギは、どこか掴みどころのない旅人として描いてきましたが、この章では彼自身にスポットが当たります。
なぜ彼は何百年もの間、ハザムの隣にいたのか。
何を見て、何を考え、そして何を選ぶのか。
今まで何気なく交わしてきた会話にも、少しずつ意味が生まれていきます。
この章は派手な戦いよりも、「世界を見届ける者」の視点を大切に描いていく予定です。
最後まで見届けていただけると嬉しいです。




