Episode 1-5 「怒りの形」
いつも読んでいただきありがとうございます。
『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。
主人公は決して善人ではありません。
ですが、悪人とも少し違います。
長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。
そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
空気が、張り詰めていた。
西門前。
集落の住人たちが距離を取る中、カズキだけが楽しそうに笑っていた。
背後には異形の獣。
黒い肉の塊のような身体。
埋め込まれた人面が、苦しそうに呻いている。
「趣味悪ぃな……」
ハヤマが低く呟く。
カズキは肩をすくめた。
「いや? せっかく異世界来たんだから、楽しまないと損じゃないっすか」
その目が、またユリアへ向く。
「それにさぁ」
「可愛い子もいるし」
ユリアの耳がぴくりと動く。
ハヤマの後ろで、集落の獣人たちが殺気立った。
だがカズキは気にしない。
むしろ面白がっている。
「先輩って昔からそうでしたよね」
「欲しいもんあっても、見てるだけ」
「だから遅いんすよ」
ハヤマは黙っていた。
言い返せなかった。
昔からそうだった。
女にも。
仕事にも。
人生にも。
踏み込めなかった。
その間に、誰かに取られていく。
カズキみたいな奴に。
「なぁ先輩」
カズキが笑う。
「異世界まで来て、まだ“いい人”やってんすか?」
その瞬間。
リナが前へ出た。
「……帰って」
カズキが目を向ける。
リナは震えていた。
それでも立っている。
「ここは、ハヤマ様の村よ」
「あなたみたいなの、いらない」
一瞬、静寂。
そして。
カズキは吹き出した。
「あははっ」
「何それ、マジで宗教じゃん」
リナの顔が赤くなる。
「違っ……」
「でもさぁ」
カズキが、笑ったまま手を上げる。
その瞬間。
異形の獣が動いた。
速すぎた。
黒い腕が伸びる。
リナの胸を、貫いた。
「……え?」
リナ自身が、一番分かっていなかった。
口から血が溢れる。
身体がゆっくり崩れる。
土に赤が広がる。
集落が静まり返った。
カズキは少し目を丸くする。
「あ」
「やべ、死んだ」
軽かった。
本当に、それだけだった。
ハヤマの頭の中で、何かが切れる音がした。
「……お前」
声が、自分でも驚くほど低かった。
リナが倒れている。
十年前。
助けた少女。
笑っていた顔。
畑を走っていた姿。
全部が、土の上に転がっていた。
ユリアがハヤマを見る。
その瞬間。
視界に文字列が浮かぶ。
> 《感情同期率:68%》
《深度接続》
《生命支配権限 一時解放》
空気が、沈んだ。
獣人たちが膝をつく。
異形の獣が悲鳴を上げる。
カズキの笑みが消えた。
「……は?」
地面が軋む。
森全体が揺れる。
ユリアの瞳が赤く染まっていた。
いや。
違う。
ハヤマの感情が、流れ込んでいる。
怒り。
殺意。
喪失。
ぐちゃぐちゃの感情。
カズキが初めて一歩下がった。
「ちょ、待っ……」
ハヤマが前へ出る。
一歩。
それだけで空気が重くなる。
「先輩、俺っすよ?」
「なぁ?」
「ふざけんなって!」
カズキが叫ぶ。
異形の獣が飛び出す。
だが。
ハヤマが視線を向けた瞬間。
異形の身体が潰れた。
爆ぜる。
血と肉が地面へ飛び散る。
カズキの顔から色が消えた。
「なんだよ、それ……!」
ハヤマは止まらない。
十年分の感情が、一気に溢れていた。
守りたかった。
この場所を。
ようやく出来た居場所を。
なのに。
また奪われた。
また、自分より軽い奴に。
「お前みたいなのが……」
ハヤマの声が震える。
「なんで、いつも……!」
空間が歪む。
カズキの身体が浮いた。
骨が軋む音。
「が、ぁ……っ!!」
「待っ……ごめ……!」
潰れる。
腕が折れ。
脚が砕け。
血が飛ぶ。
それでもハヤマは止めない。
集落の誰も、動けなかった。
そこにいたのは、もう“人”じゃなかった。
怒りそのものだった。
やがて。
カズキは動かなくなった。
静寂。
ハヤマは荒い息を吐く。
その時だった。
視界の奥に、文字が浮かぶ。
> 《高位生命因子を確認》
《適合率:91%》
《再構築可能》
ハヤマは、動かなくなったカズキを見る。
血。
肉。
骨。
死体。
なのに。
頭のどこかが、冷静だった。
――使える。
その感覚に。
ハヤマ自身が、一番ぞっとしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。
この作品は、戦いや能力だけではなく、
「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」
を描いていけたらと思っています。
よければ感想などいただけると励みになります。
次回もよろしくお願いします。




