Episode 1-4 「最初の勇者」
いつも読んでいただきありがとうございます。
『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。
主人公は決して善人ではありません。
ですが、悪人とも少し違います。
長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。
そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
十年の月日が流れていた。
森は、もう森ではなかった。
切り開かれた大地。
畑。
石造りの家々。
柵に囲まれた集落。
人間。
獣人。
角を持つ者。
本来なら同じ場所で生きられない者たちが、そこにはいた。
人々はこの土地をこう呼ぶ。
――ハザムの庭。
最初は誰かの冗談だった。
“ハヤマ”が訛り、崩れ、いつしかそう呼ばれるようになった。
「ハヤマ様ー!」
畑の方から女が走ってくる。
赤茶色の髪を後ろで束ねた、二十代前半ほどの女性。
リナだった。
十年前、熊に襲われていた少女。
今では集落のまとめ役の一人になっている。
「西側の柵、また壊れてました!」
「夜狼か?」
「多分! あと畑も荒らされてます!」
「あとで見に行く」
「お願いします!」
リナは笑って去っていく。
ハヤマはその背を見送りながら、空を見上げた。
二つの月。
異世界にも、もう慣れてしまった。
いや。
慣れすぎていた。
人が死ぬこと。
魔物を殺すこと。
命を創ること。
最初は吐きそうになっていたのに、今では“判断”として処理している。
その事実に、自分で少しだけ寒気がした。
「……ハヤマ」
振り返る。
ユリアが立っていた。
銀色の髪は少し伸び、背も高くなっている。
十年前の少女ではない。
年齢を重ね、女性へ変わり始めていた。
だが瞳だけは変わらない。
静かで、どこか人ではない色。
「どうした」
「来る」
ユリアが森を見る。
その瞬間。
ハヤマの頭の奥に、文字が浮かぶ。
> 《感情同期率:31%》
《感覚共有 一部解放》
次の瞬間。
ハヤマにも“聞こえた”。
森の奥。
足音。
殺気。
何か巨大なものを引きずる音。
「……っ」
ハヤマが目を細める。
前までは見えなかった。
いや。
ユリアを通して感じている。
同期率。
いつからか、ユリアとの間に奇妙な“繋がり”が生まれていた。
感情が近づくほど、感覚も混ざる。
そして。
ユリアの力の一部を、自分も扱えるようになる。
最初は偶然だと思っていた。
だが違う。
最近は、ユリアが何を感じているか、少し分かる時がある。
逆に。
自分の感情も、向こうへ流れている気がした。
「……強い」
ユリアが呟く。
その時だった。
――ドォン!!
西門付近で爆発音が響いた。
集落がざわつく。
悲鳴。
土煙。
ハヤマは走った。
ユリアも続く。
西門。
そこには、“男”が立っていた。
黒髪。
若い顔。
軽薄そうな笑み。
見覚えがある。
忘れるはずがない。
「……マジか」
男が笑う。
「久しぶりっすねぇ、先輩」
ハヤマの喉が乾く。
会社の後輩。
飲み会で女を抱いて笑っていた男。
自分を見下していた男。
「……カズキ」
カズキは周囲を見渡した。
獣人。
混血。
異形の村。
「へぇー」
「マジで国ごっこやってんだ」
その視線が、ユリアで止まる。
カズキの口元が歪む。
「……あー」
「なるほどねぇ」
ユリアがハヤマの後ろへ半歩下がる。
その瞬間。
ハヤマの中で何かが揺れた。
怒り。
警戒。
独占欲にも似た感情。
視界の端に文字が浮かぶ。
> 《感情同期率:39%》
《能力共有:威圧 解放》
空気が歪む。
地面が軋む。
周囲の獣人たちが息を呑んだ。
カズキが目を細める。
「……へぇ」
「そういう感じなんすね」
その背後で、空間が裂けた。
現れたのは、巨大な異形。
黒い獣の身体に、人間の顔がいくつも埋まっている。
泣いている顔。
笑っている顔。
苦しんでいる顔。
集落に緊張が走る。
だがカズキは笑ったままだった。
「先輩さぁ」
「せっかく異世界来たんだから、もっと楽しまないと」
その目が、ユリアを見る。
粘つくような視線。
「その女」
「俺にも使わせてくれません?」
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。
この作品は、戦いや能力だけではなく、
「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」
を描いていけたらと思っています。
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次回もよろしくお願いします。




