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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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4/8

Episode 1-3 「はじまりの罪」

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。


悲鳴は、短かった。


助けを求めるというより、喉を潰されたような声。


そのあとに聞こえたのは、肉を裂く音だった。


ハヤマの背筋に冷たいものが走る。


「……おい」


ユリアは立ち上がっていた。


獣耳が森の奥へ向いている。


「三人」


「は?」


「人が三人。あと、大きいのが一匹」


“大きいの”。


その言い方だけで嫌な想像が浮かぶ。


ハヤマは立ち上がる。


「逃げるぞ」


ユリアが振り返った。


「助けないの?」


「助けるって……」


ハヤマは言葉に詰まる。


戦えるわけがない。


さっきの狼だって、偶然どうにかなっただけだ。


現代日本の会社員だった男に、化け物と戦う覚悟なんてあるはずがない。


だが。


また悲鳴が響く。


今度は女の声だった。


ハヤマは舌打ちする。


「クソ……!」


ユリアは黙って見ていた。


試すように。


いや。


観察するように。


「……行くぞ」


ユリアは少しだけ目を細めた。


それが、笑ったようにも見えた。


森を進む。


湿った土。


木の根。


息が上がる。


だがユリアは静かだった。


音もなく歩く。


やがて木々が開ける。


そこには、小さな荷車があった。


横転している。


血。


そして。


死体。


男が二人。


胸を裂かれていた。


その前に立っていたのは、巨大な熊だった。


黒い毛並み。


筋肉の塊みたいな身体。


口元から血が垂れている。


その後ろで、一人の少女が震えていた。


十代前半くらいか。


腰が抜けて動けない。


熊がゆっくり少女へ近づく。


ハヤマの足が止まる。


無理だ。


勝てる相手じゃない。


逃げろ。


頭の中で何度も警告が鳴る。


だが。


少女と目が合った。


その目は、“諦めた目”だった。


助からないと理解している目。


その瞬間。


ハヤマの中で、何かが引っかかった。


――ああ。


昔の俺みたいだ。


誰も来ないと思ってる目だ。


熊が少女へ腕を振り上げる。


ハヤマは叫んでいた。


「ユリア!!」


空気が歪む。


ユリアの瞳が赤く光った。


次の瞬間。


熊の身体が、地面へ叩きつけられる。


轟音。


土が跳ねる。


熊が咆哮する。


だが動けない。


見えない何かに押さえつけられていた。


ハヤマは息を呑む。


ユリアが、静かに前へ出る。


その姿は、小さな少女なのに。


どこか、“人ではない何か”に見えた。


熊が恐怖に震えている。


ユリアは熊を見下ろしたまま言う。


「どうする?」


「……え?」


「殺す?」


ハヤマの心臓が跳ねる。


その言葉が、あまりにも軽かった。


まるで。


虫を潰すか聞くみたいに。


「いや……」


「でも、また襲うよ?」


ハヤマは言葉を失う。


熊は暴れている。


少女は泣いている。


死体の血の匂いがする。


ここは日本じゃない。


人が簡単に死ぬ世界。


その現実が、急に目の前へ押し寄せてくる。


ユリアがもう一度聞いた。


「どうするの、ハヤマ」


その問いは、熊の話じゃなかった。


命を奪うのか。


見捨てるのか。


選べという話だった。


ハヤマは震える手を握り締める。


そして。


「……殺せ」


そう言った瞬間。


熊の首が、不自然な方向へ折れた。


ゴキリ、と。


乾いた音が響く。


静寂。


森から音が消える。


ハヤマの喉が震える。


胃の奥が気持ち悪い。


だが、吐けなかった。


ユリアは熊を見下ろしたまま、小さく呟く。


「……そっか」


少女が泣きながらこちらを見る。


「た、助けて……」


ハヤマはその声を聞きながら、熊の死体を見ていた。


自分が殺した。


命令した。


人を救うために。


そのはずなのに。


胸の奥で、何かが静かに軋む音がした。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。

この作品は、戦いや能力だけではなく、

「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」

を描いていけたらと思っています。

よければ感想などいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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