Episode 1-2 「最初の子供」
いつも読んでいただきありがとうございます。
『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。
主人公は決して善人ではありません。
ですが、悪人とも少し違います。
長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。
そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
焚き火が、静かに揺れていた。
森の夜は冷える。
二つの月の光が木々の隙間から差し込み、赤い火の粉がゆっくり空へ消えていく。
羽山成智――いや、今はまだ“ハヤマ”としか呼ばれていない男は、火を見つめたまま黙っていた。
向かいには、少女。
銀色の髪。
獣の耳。
淡い金色の瞳。
年齢にすれば十歳前後。
さっき巨大な狼を跪かせた存在には、とても見えない。
少女は串焼きの肉をじっと見ていた。
「……食うか?」
少女は小さく頷く。
ハヤマは肉を差し出した。
少女は少しだけ匂いを嗅ぎ、それから静かに齧る。
「……おいしい」
「そりゃよかった」
普通の会話だった。
それが逆に、不気味だった。
ここはどこなのか。
なぜ自分は若返っているのか。
あの頭の中の声は何なのか。
分からないことだらけなのに、目の前の少女だけが妙に“現実”だった。
少女は肉を食べ終えると、焚き火越しにハヤマを見た。
「怖くないの?」
「……何が?」
「私」
ハヤマは少し考える。
怖い。
正直、怖い。
人間じゃない。
自分が作ったという感覚も、意味が分からない。
でも。
「まだ、整理できてねぇ」
少女は少しだけ笑った。
その笑い方に、胸の奥がざわつく。
まるで昔から知っている誰かを思い出しそうになる。
だが、思い出せない。
「名前は?」
ハヤマが聞くと、少女は少し黙った。
風が吹く。
銀髪が揺れる。
少女は遠くを見るような目をして、ぽつりと言った。
「……ユリア」
ハヤマの呼吸が、一瞬止まる。
聞いたことがあるわけじゃない。
なのに妙に引っかかった。
「ユリア……」
「うん」
「そうか」
少女――ユリアは、今度は逆に聞き返してくる。
「あなたは?」
「羽山成智」
「……長い」
「悪かったな」
ユリアは少し考え込む。
それから。
「じゃあ、“ハヤマ”」
「そのままだろ」
「嫌?」
「……別に」
ユリアは小さく頷いた。
不思議だった。
こんな状況なのに、妙に落ち着く。
その瞬間だった。
頭の奥へ、再び“知識”が流れ込む。
視界が揺れる。
見えない文字列。
> 《第一生成生命体》
《生命安定確認》
《個体名:ユリア》
《感情同期率:12%》
《親和性:極大》
「っ……!」
頭が痛む。
ハヤマは額を押さえた。
ユリアの身体構造。
生命反応。
感情の揺れ。
全部、“分かる”。
いや。
流れ込んでくる。
「なんだよ……これ」
「ハヤマ?」
ユリアが近づく。
その瞬間。
ハヤマは理解した。
この子は、自分から生まれた。
本能的に。
理屈ではなく。
そう理解してしまった。
気味が悪かった。
人間が持っていい感覚じゃない。
「……なぁ」
「ん?」
「お前、なんなんだ?」
ユリアは少し黙る。
焚き火の光が、瞳の奥で揺れている。
「分からない」
「……」
「でも」
ユリアはハヤマを見る。
真っ直ぐに。
「ハヤマが、ずっと一人だったのは分かる」
ハヤマの呼吸が止まる。
「……は?」
「なんとなく」
ユリアはそれ以上説明しない。
まるで“感じている”だけみたいに。
森の風が吹く。
火が揺れる。
その時だった。
遠くから、悲鳴が聞こえた。
続いて。
何かが砕ける音。
ユリアの獣耳がぴくりと動く。
「……人」
「え?」
「誰か、襲われてる」
森の奥。
暗闇の向こうで、何かが動いていた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。
この作品は、戦いや能力だけではなく、
「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」
を描いていけたらと思っています。
よければ感想などいただけると励みになります。
次回もよろしくお願いします。




