Episode 1-1 「創世」
いつも読んでいただきありがとうございます。
『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。
主人公は決して善人ではありません。
ですが、悪人とも少し違います。
長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。
そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
――寒い。
それが、最初の感覚だった。
羽山成智は、ゆっくりと目を開ける。
空が見えた。
知らない空だった。
青白い月が、二つ浮かんでいる。
「……は?」
声が漏れる。
身体を起こす。
湿った土の感触。
草の匂い。
冷たい風。
そして。
自分の手。
「若……」
皺が減っていた。
腕も細い。
腹も出ていない。
呼吸が軽い。
四十五歳の身体じゃない。
「なんだこれ……」
混乱する頭の中へ、不意に“声”が響いた。
> 《適合確認》
《固有能力《異種交配》を付与しました》
《生命因子生成権限を解放します》
「……は?」
意味が分からない。
だが奇妙なことに、“理解”だけはできた。
命を、作れる。
頭の奥に、そんな感覚が流れ込んでくる。
人間と魔物。
種と種。
血と血。
混ぜ合わせ、繋ぎ、新しい生命へ変換する力。
「……なんだよ、それ」
気味が悪かった。
夢にしては、生々しすぎる。
その時だった。
ガサ――ッ。
草むらが揺れた。
羽山の身体が硬直する。
現れたのは、狼だった。
いや。
狼より大きい。
肩までの高さが、羽山の胸近くある。
灰色の毛並み。
赤い瞳。
口元から覗く牙。
獣臭。
「お、おい……」
狼が唸る。
低く。
腹に響く音。
本能で理解した。
――死ぬ。
逃げなければ。
だが足が動かない。
狼が地面を蹴る。
飛びかかってくる。
羽山は反射的に腕を前へ出した。
その瞬間。
世界が、軋んだ。
空間に黒い亀裂が走る。
狼が止まった。
羽山の手のひらから、光とも泥ともつかない“何か”が溢れ出す。
そして。
それは、“形”になった。
小さな影。
少女だった。
銀色の髪。
獣の耳。
裸足。
まだ幼い。
だがその瞳だけが異様に静かだった。
少女は狼を見る。
次の瞬間。
狼が、膝をついた。
「……え?」
狼は震えていた。
恐怖している。
少女に。
少女はゆっくりと振り返る。
羽山を見る。
その顔を見た瞬間、羽山の心臓が大きく跳ねた。
似ていた。
誰かに。
記憶の奥に残る、あの女に。
だが、違う。
年齢も。
顔立ちも。
なのに、なぜか。
懐かしい。
少女は小さく首をかしげた。
それから。
静かに言った。
「……遅かったね」
羽山の呼吸が止まる。
その言い方。
その空気。
妙に覚えがあった。
「……お前」
声が掠れる。
少女は答えない。
ただ、羽山を見つめている。
狼は頭を地面へ擦りつけたまま動かない。
風が吹く。
二つの月が揺れる。
その時。
羽山はまだ理解していなかった。
自分が今、“世界を変える最初の命”を生み出したことを。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。
この作品は、戦いや能力だけではなく、
「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」
を描いていけたらと思っています。
よければ感想などいただけると励みになります。
次回もよろしくお願いします。




