Episode 0 「遅すぎた男」
はじめまして。
『神になるには、遅すぎた』を読んでいただきありがとうございます。
この作品は、
「誰にも求められなかった男が、世界を創る側になったらどうなるのか」
をテーマにしたダークファンタジーです。
異世界転生、国家運営、戦争、種族問題などの要素がありますが、根底にあるのは“孤独”や“欲望”だったりします。
主人公は決して綺麗な人間ではありません。
ですが、だからこそ、人間臭く書ければと思っています。
ゆっくりですが、最後まで書き切りたいと思っていますので、お付き合いいただければ嬉しいです。
それでは、エピソード0をお楽しみください。
雨だった。
春も終わりかけた夜の歌舞伎町は、湿ったネオンで光っていた。
羽山成智、四十五歳。
コンビニで買った安いビニール傘を片手に、雑居ビルの前でスマホを見ている。
予約時間、二十二時。
「……早く来すぎたな」
昔からそうだった。
待たせるのが嫌だった。
いや、本当は違う。
待たされるのが怖かった。
誰にも必要とされない時間が、嫌いだった。
ビルのガラス扉に映る自分を見る。
疲れた顔。
くたびれたスーツ。
腹も少し出ている。
若い頃、特別モテなかったわけじゃない。
ただ、何も言えなかった。
強引にもなれず、
器用にもなれず、
気づけば“タイミングを逃し続けた男”になっていた。
恋愛は、遅かった。
出世も、遅かった。
人生そのものが、少しずつ遅かった。
やがて彼は、“金を払えば会える関係”へ逃げ込むようになった。
その方が楽だった。
傷つかなくて済むから。
「羽山さん?」
声がした。
顔を上げる。
エレベーター前。
柔らかい色のカーディガンを羽織った女が、小さく手を振っていた。
「こんばんは」
「……おう」
その女は、よく喋るタイプではなかった。
営業トークも少ない。
だが、不思議と居心地が良かった。
多分、気を遣わなくてよかったからだ。
部屋に入る。
シャワー。
世間話。
笑い。
触れ合い。
いつもと同じ流れ。
……のはずだった。
だが、違った。
時間が経つにつれ、女の呼吸が乱れ始める。
「あ、ちょ……待っ……」
「大丈夫か?」
「はぁ……っ、いや……羽山さん、本当に……っ」
女は途中から笑っていた。
困ったように。
呆れたように。
そして最後には、ぐったりとベッドへ沈んだ。
「……水」
「ああ」
羽山は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、ストローを差す。
背中を支え、ゆっくり飲ませる。
「……なんで羽山さんって、最後いつも介抱モードなの」
「いや……しんどそうだから」
「普通、帰るよ?」
「そういうもんなのか?」
「そういうもん」
女は笑った。
少しだけ。
静かな部屋だった。
エアコンの音だけが響いている。
「ねえ」
「ん?」
「羽山さんってさ」
「優しいよね」
羽山は少し黙る。
それから苦笑した。
「遅いんだよ、俺」
「何が?」
「全部」
女は少し考えてから、小さく笑う。
「でもさ」
「遅い人って、ちゃんと見てる人多いよ」
その言葉が、妙に残った。
帰る時間になる。
服を着て、財布をしまい、エレベーター前へ向かう。
扉が開く。
乗り込む。
閉まる直前。
女が言った。
「また来てね」
羽山は少しだけ笑う。
「……もう来れないかもしれない」
「え?」
「なんとなく」
扉が閉まり始める。
女が少し困った顔をした。
その顔を見た瞬間だった。
――ドクン。
胸が、潰れるように痛んだ。
視界が揺れる。
息が吸えない。
スマホが床へ落ちる。
「……は?」
エレベーターが下降する。
数字が減っていく。
7。
6。
5。
冷たい汗が流れる。
その時、不意に思った。
ああ。
俺。
もっと普通に、誰かと生きたかったな。
4。
3。
最後に浮かんだのは、女の顔だった。
笑顔ではなく。
少しだけ、寂しそうな顔。
2。
1。
そして。
世界が、白く弾けた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
まずは“転生前の男”を書いてみました。
羽山成智という人間が、
何を求め、何を諦め、どこかで止まってしまったのか。
そして、なぜ“神”になっていくのか。
この作品は、異世界で無双する話でもありますが、同時に「人間性が少しずつ変質していく物語」でもあります。
あと、風俗描写があるので誤解されそうですが、単なるエロ作品にはしない予定です。
欲望や孤独、承認欲求みたいなものを、ファンタジーとして描ければと思っています。
感想などいただけると励みになります。
次回から、いよいよ異世界編です。




