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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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Episode 7-8 「医療卿」

第7章 前書き


ここまで読んでいただきありがとうございます。


建国から始まったこの物語も、気付けば随分と長い時間が流れました。


正義。 思想。 自由。 愛。 信仰。


様々な勇者達が現れ、 それぞれの答えをハザムへぶつけてきました。


そして第7章のテーマは――


「死」


です。


どれだけ文明が発展しても。 どれだけ世界が平和になっても。


人は死にます。


大切な人も。 愛した人も。 いつか必ず。


それは神であっても変えられないのかもしれません。


今回の勇者アベルは、 これまでの勇者達とは少し違います。


世界を変えたい訳でも、 神を倒したい訳でもありません。


ただ、 人の最期を見届け続ける男です。


そして久しぶりに、 ハザムの家族とも言える存在、 エリスも登場します。


神になった男が、 死をどう受け入れるのか。


アベルの死から。


一年。


帝都。


王立病院。


変わらない朝。


患者が来る。


医師が走る。


神官が祈る。


誰かが生まれ。


誰かが死ぬ。


世界は変わらない。


だが。


少しだけ変わったものもあった。


病院入口。


石碑。


小さな銅像。


そこには刻まれている。


『帝国看取り司祭 アベル』


豪華ではない。


だが。


毎日花が供えられていた。


患者達が。


家族達が。


静かに。


感謝を残していく。


その前へ。


一人の女性が立っていた。


エリス。


白衣。


長い髪。


少しだけ大人になった顔。


石碑を見る。


そして笑う。


「今日も忙しいですよ」


返事は無い。


当然だった。


それでも。


毎朝来る。


習慣になっていた。


やがて。


病院の鐘が鳴る。


仕事の時間だった。


エリスは歩き出す。


もう涙は流れない。


悲しくない訳ではない。


忘れた訳でもない。


ただ。


前へ進んでいた。


アベルが望んだように。


その頃。


王城。


玉座の間。


神官。


貴族。


将軍。


属州代表。


帝国中枢が集まっていた。


ハザムは玉座へ座る。


後ろには。


白騎士レオン。


黒騎士カズハ。


紫衣卿セイゼル。


白銀の詩唱卿リオ。


変わらない側近達。


そして。


ハザムが言う。


「新たな省を作る」


ざわめき。


紫衣卿が資料を開く。


「終末医療省」


さらにざわめく。


聞き慣れない言葉だった。


ハザムは続ける。


「死を管理するのではない」


「死を支える」


静かな声。


「看取り」


「遺族支援」


「終末医療」


「全て国家事業とする」


玉座の間が静まる。


理解出来る者は少ない。


だが。


リオだけが微笑んだ。


そして。


ハザムは続ける。


「責任者を任命する」


扉が開く。


入って来た。


エリス。


周囲が見る。


若い。


あまりにも若い。


だが。


ハザムは迷わない。


「前へ」


エリスが進む。


玉座の前。


跪く。


ハザムは言った。


「医療卿エリス」


「任命する」


静寂。


帝国最年少の卿。


誰も予想していなかった。


エリスも。


少しだけ驚いていた。


だが。


やがて頭を下げる。


「謹んで拝命いたします」


その声は震えていなかった。


もう。


あの日の少女ではない。


会議終了後。


王城の廊下。


エリスが歩いている。


そこへ。


ハザムが現れる。


珍しい事だった。


二人だけ。


しばらく沈黙。


やがて。


エリスが言う。


「おじいさま」


ハザムが見る。


「何だ」


エリスは少し笑う。


「アベル様なら怒りますよ」


ハザム。


「何故だ」


「責任が重すぎます」


即答だった。


ハザムは少しだけ笑う。


本当に少しだけ。


「そうか」


沈黙。


やがて。


エリスが空を見る。


青空。


雲。


穏やかな日だった。


「でも」


小さく笑う。


「頑張ります」


ハザムは頷いた。


「そうしろ」


短い言葉。


だが。


それで十分だった。


その夜。


王城最上階。


ナギがいた。


いつもの場所。


いつもの笑顔。


ハザムもいた。


二人で帝都を見下ろす。


ナギが言う。


「変わったな」


ハザム。


「そうか」


ナギ。


「前なら再構築してた」


沈黙。


風が吹く。


帝都の灯りが揺れる。


やがて。


ハザムが呟く。


「終わったからだ」


ナギが笑う。


「そうか」


それ以上は聞かない。


必要無かった。


遠く。


王立病院。


新しく灯る明かり。


終末医療省。


その窓には。


まだ若い医療卿が残業していた。


書類の山。


ため息。


そして。


机の端。


一枚の古い紙。


アベルの字だった。


昔。


患者へ渡すために書いた言葉。


そこには。


短く書かれていた。


『人は終わる。だから優しくなれる。』


エリスはそれを見て笑う。


窓の外。


星空。


どこにも。


アベルはいない。


だが。


確かに残っていた。


思想として。


記憶として。


そして。


人々の中に。


こうして。


死の勇者アベルは終わった。


再構築されず。


神にもならず。


伝説にもならず。


ただ。


多くの人に看取られた一人の人間として。


そして。


灰神圏はまた少しだけ変わる。


神の国から。


人の国へ。


ゆっくりと。


本当にゆっくりと。


第七章 完結

「死の勇者編」 終了

第7章 後書き


第7章を読んでいただきありがとうございました。


この作品は長い間、


「生きるとは何か」


をテーマに書いてきました。


ですが、その答えを考えるなら、


どうしても避けられないものがあります。


それが――


死です。


ハザムはこれまで多くの人を失いました。


レオン。


シエル。


ノリア。


そして数え切れない人々。


その度に前へ進みながらも、 どこかで受け入れる事を避けてきたのかもしれません。


今回登場するアベルは、 誰かを倒すための勇者ではありません。


誰かの最期を見届ける勇者です。


そしてエリスもまた、 命と死に向き合い続ける人物になります。


派手な戦争や国家運営とは少し違う章になりますが、 この物語の核心へ近付く章になると思っています。


神は死を超えられるのか。


それとも。


死を受け入れる事こそが人間らしさなのか。


そんな事を考えながら読んでいただけたら嬉しいです。


次回もよろしくお願いいたします。

『神になるには、遅すぎた』作者より。

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