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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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Episode 7-5 「二百十七年」

第7章 前書き


ここまで読んでいただきありがとうございます。


建国から始まったこの物語も、気付けば随分と長い時間が流れました。


正義。 思想。 自由。 愛。 信仰。


様々な勇者達が現れ、 それぞれの答えをハザムへぶつけてきました。


そして第7章のテーマは――


「死」


です。


どれだけ文明が発展しても。 どれだけ世界が平和になっても。


人は死にます。


大切な人も。 愛した人も。 いつか必ず。


それは神であっても変えられないのかもしれません。


今回の勇者アベルは、 これまでの勇者達とは少し違います。


世界を変えたい訳でも、 神を倒したい訳でもありません。


ただ、 人の最期を見届け続ける男です。


そして久しぶりに、 ハザムの家族とも言える存在、 エリスも登場します。


神になった男が、 死をどう受け入れるのか。


楽しんでいただければ幸いです。


それでは第7章、 「死の勇者編」 始まります。


王立病院。


夕方。


看取り病棟。


窓の外。


夕日が帝都を赤く染めていた。


病室は静かだった。


老人達は眠り。


神官達は記録を書き。


医師達は巡回する。


いつもの光景。


アベルは廊下を歩いていた。


だが。


頭の中は別の事でいっぱいだった。


『217年』


エリス。


彼女の寿命。


何度見ても変わらない。


二百十七年。


長い。


あまりにも長い。


人間なら三回生きられる。


その時。


廊下の向こうから声。


「アベル様!」


振り返る。


エリス。


相変わらず元気だった。


両手いっぱいの書類。


「手伝ってください!」


アベル。


「嫌です」


即答。


エリス。


「酷い!」


周囲の神官達が笑う。


いつものやり取りだった。


結局。


アベルは手伝う事になった。


中庭。


木陰の机。


夕暮れ。


風が心地良い。


エリスは書類を整理しながら言う。


「最近元気ないですね」


アベルは目を逸らした。


「そんな事ありません」


「あります」


即答だった。


「建国祭からずっとです」


アベルは苦笑する。


誤魔化せない。


エリスは頬杖をついた。


「悩み事ですか?」


沈黙。


アベルはしばらく空を見上げる。


そして。


「エリス様」


「はい」


「二百年後、何をしていますか」


エリスが固まった。


「急ですね」


少し考える。


そして笑った。


「病院にいると思います」


「今と同じですか?」


「多分」


エリスは頷く。


「患者さんに怒られて」


「子供達の相手して」


「看取りをして」


「たまにサボって」


アベルが笑う。


「最後のはいけません」


「大事です」


エリスは真顔だった。


二人は少し笑う。


夕日が傾く。


エリスは空を見る。


「でも」


「分かりません」


静かな声だった。


「明日死ぬかもしれませんし」


アベルが見る。


エリスは微笑んでいた。


「母もそうでした」


沈黙。


本来三百年以上生きるはずだった。


神の血を引く者。


それでも。


事故で死んだ。


「だから」


エリスは続ける。


「長く生きる予定なんて、あまり信用してないんです」


アベルは言葉を失う。


寿命が見える自分と。


寿命を信じない彼女。


不思議な組み合わせだった。


「アベル様は?」


エリスが聞く。


「十年後、何をしていますか?」


アベルは少し考えた。


そして笑う。


「死んでいるかもしれません」


エリスの笑顔が消えた。


「そういう事を言わないでください」


本気だった。


アベルは少し驚く。


そして。


少しだけ嬉しくなった。


その時。


病院の鐘が鳴る。


一度。


二度。


三度。


誰かが旅立った。


二人の表情が変わる。


仕事だった。


病室。


昼間の老人。


静かだった。


家族に囲まれ。


孫達に手を握られ。


穏やかな顔で眠っている。


老人の頭上。


数字は消えていた。


アベルは黙って祈る。


エリスも祈る。


家族達は泣いていた。


だが。


どこか穏やかだった。


老人は最後まで生きた。


最後まで家族といた。


それは幸せな終わりだった。


病室を出る。


廊下。


夕日。


アベルは隣を歩くエリスを見る。


祈る姿。


笑う姿。


怒る姿。


患者へ寄り添う姿。


綺麗だと思った。


そして。


苦しくなった。


『217年』


その数字が頭から離れない。


自分は人間だ。


彼女は違う。


寿命も。


未来も。


何もかも。


違う。


だから。


アベルは少しずつ距離を取ろうと決めた。


傷付く前に。


好きになり過ぎる前に。


その夜。


病院の屋上。


エリスは一人で夜空を見上げていた。


満月。


星空。


冷たい風。


小さく呟く。


「アベル様」


最近。


少し遠い。


理由は分からない。


だが。


寂しかった。


エリスは胸元を押さえる。


そして。


初めて気付く。


自分が。


あの青年を特別に見ている事に。


夜風が吹く。


帝都の灯りが揺れる。


誰も知らない。


死を見続ける勇者と。


神の血を引く少女の恋が。


静かに始まっていた事を。

第7章 後書き


第7章を読んでいただきありがとうございました。


この作品は長い間、


「生きるとは何か」


をテーマに書いてきました。


ですが、その答えを考えるなら、


どうしても避けられないものがあります。


それが――


死です。


ハザムはこれまで多くの人を失いました。


レオン。


シエル。


ノリア。


そして数え切れない人々。


その度に前へ進みながらも、 どこかで受け入れる事を避けてきたのかもしれません。


今回登場するアベルは、 誰かを倒すための勇者ではありません。


誰かの最期を見届ける勇者です。


そしてエリスもまた、 命と死に向き合い続ける人物になります。


派手な戦争や国家運営とは少し違う章になりますが、 この物語の核心へ近付く章になると思っています。


神は死を超えられるのか。


それとも。


死を受け入れる事こそが人間らしさなのか。


そんな事を考えながら読んでいただけたら嬉しいです。


次回もよろしくお願いいたします。

『神になるには、遅すぎた』作者より。

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