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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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Episode 7-2 「寿命視」


ここまで読んでいただきありがとうございます。


建国から始まったこの物語も、気付けば随分と長い時間が流れました。


正義。 思想。 自由。 愛。 信仰。


様々な勇者達が現れ、 それぞれの答えをハザムへぶつけてきました。


そして第7章のテーマは――


「死」


です。


どれだけ文明が発展しても。 どれだけ世界が平和になっても。


人は死にます。


大切な人も。 愛した人も。 いつか必ず。


それは神であっても変えられないのかもしれません。


今回の勇者アベルは、 これまでの勇者達とは少し違います。


世界を変えたい訳でも、 神を倒したい訳でもありません。


ただ、 人の最期を見届け続ける男です。


そして久しぶりに、 ハザムの家族とも言える存在、 エリスも登場します。


神になった男が、 死をどう受け入れるのか。


楽しんでいただければ幸いです。


それでは第7章、 「死の勇者編」 始まります。


帝都中央区。


王立病院。



---


朝。



---


病院は混雑していた。



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医師。



---


看護師。



---


神官。



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患者。



---


今日も誰かが生まれ。



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今日も誰かが死ぬ。



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それが日常だった。



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廊下を一人の青年が歩いている。



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黒髪。



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穏やかな顔。



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簡素な神官服。



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アベル。



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帝都看取り司祭。



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まだ二十代。



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だが。



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帝都では有名人だった。



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理由は一つ。



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人の死が見える。



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---


突然。



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悲鳴。



---


「誰か!!」



---


「助けてください!!」



---


廊下が騒然となる。



---


患者用運搬車。



---


車輪破損。



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坂道。



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暴走。



---


先には子供。



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周囲が叫ぶ。



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間に合わない。



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誰もが思った。



---


だが。



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アベルだけは違った。



---


彼の視界。



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子供の頭上。



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数字。



---


『52年』



---


残り寿命。



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まだ死なない。



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アベルは走る。



---


迷わない。



---


飛び込む。



---


轟音。



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運搬車を押し倒す。



---


床へ転がる。



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周囲が駆け寄る。



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「大丈夫か!」



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子供は泣いている。



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だが無傷。



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アベルは笑う。



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「良かった」



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それだけだった。



---



---


若い神官が駆け寄る。



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「どうして分かったんですか」



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アベルは困った顔をする。



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「勘です」



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当然嘘だった。



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能力は秘密。



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昔から。



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言っても信じてもらえなかった。



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---


寿命視。



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生まれつき持っていた能力。



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人を見る。



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すると見える。



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残り時間。



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残り寿命。



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長い人。



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短い人。



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全て。



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子供の頃。



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怖かった。



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母親。



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父親。



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友人。



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全員の頭上に数字がある。



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しかも。



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減っていく。



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毎日。



---


毎日。



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少しずつ。



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そして。



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ある日。



---


数字がゼロになった人が死んだ。



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能力は本物だった。



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---


だから。



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アベルは知っている。



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人は必ず死ぬ。



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誰も例外ではない。



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---


病院最上階。



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看取り病棟。



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そこがアベルの職場だった。



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老人がいる。



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病人がいる。



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余命僅かな者達。



---


アベルは一人一人へ挨拶する。



---


「おはようございます」



---


老人が笑う。



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「また来たのか」



---


「今日も来ました」



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「暇人だな」



---


「そうかもしれません」



---


二人とも笑う。



---



---


若い神官が聞く。



---


「どうしてこの仕事を?」



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アベルは窓を見る。



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少し考える。



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そして答えた。



---


「死ぬ人が嫌いじゃないからです」



---


神官が固まる。



---


アベルは苦笑する。



---


「変な言い方でしたね」



---



---


「最期って」



---


「その人が一番その人らしくなるんです」



---


静かな声。



---


「だから」



---


「見届けたいんです」



---


誰にも。



---


一人で死んでほしくない。



---


それがアベルだった。



---



---


夕方。



---


病棟の窓。



---


帝都が見える。



---


平和な街。



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豊かな街。



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そして。



---


無数の寿命。



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視界いっぱいの数字。



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何万人。



---


何十万人。



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数え切れない。



---


アベルは慣れていた。



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もう驚かない。



---



---


その時。



---


病院職員達が騒ぎ始める。



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「明日の建国祭だ」



---


「灰神皇陛下も来るらしいぞ」



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「白騎士様も!」



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「黒騎士様も!」



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盛り上がる。



---


アベルは興味無さそうだった。



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だが。



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ふと聞く。



---


「灰神皇ですか」



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職員が笑う。



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「帝国の神様だぞ」



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「一度は見ておけ」



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---


アベルは頷く。



---


見るだけなら。



---


そう思った。



---


まだ知らない。



---


その翌日。



---


自分の常識が壊れる事を。



---


寿命が見える男が。



---


初めて。



---


寿命の見えない存在と出会う事を。


第7章を読んでいただきありがとうございました。


この作品は長い間、


「生きるとは何か」


をテーマに書いてきました。


ですが、その答えを考えるなら、


どうしても避けられないものがあります。


それが――


死です。


ハザムはこれまで多くの人を失いました。


レオン。


シエル。


ノリア。


そして数え切れない人々。


その度に前へ進みながらも、 どこかで受け入れる事を避けてきたのかもしれません。


今回登場するアベルは、 誰かを倒すための勇者ではありません。


誰かの最期を見届ける勇者です。


そしてエリスもまた、 命と死に向き合い続ける人物になります。


派手な戦争や国家運営とは少し違う章になりますが、 この物語の核心へ近付く章になると思っています。


神は死を超えられるのか。


それとも。


死を受け入れる事こそが人間らしさなのか。


そんな事を考えながら読んでいただけたら嬉しいです。


次回もよろしくお願いいたします。

『神になるには、遅すぎた』作者より。

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