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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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36/80

Episode 5-5 「側室」

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。


王都。


灰神神殿。


その日。


鐘が鳴った。


静かに。


厳かに。


何度も。


何度も。


人々は理解した。


神殿で何かが起きている。


やがて。


噂は一瞬で広がった。


「神に最も近い女が選ばれた」


「新たな神妃だ」


「灰神皇の側室だ」


王都は祝福に包まれた。


誰も疑問を抱かない。


むしろ当然だった。


灰神皇。


世界を救った神。


その隣に立つ資格を持つ者。


それがリノアだった。


――


だが。


当の本人だけは。


少しも幸せではなかった。


純白の衣。


神殿奥の居室。


豪華な調度品。


侍女。


護衛。


何もかもが揃っている。


なのに。


息苦しい。


窓の外を見る。


王都。


人々。


自由な街。


その光景が妙に遠かった。


コンコン。


扉が鳴る。


侍女だった。


「リノア様」


「本日の謁見のお時間です」


リノアは小さく頷く。


「……分かりました」


静かな声だった。


――


王城。


執務室。


ハザムは書類へ目を通していた。


属州報告。


交易。


人口推移。


何も変わらない日常。


扉が開く。


リノアが入ってくる。


頭を下げる。


「失礼します」


ハザムは視線を上げる。


そして少しだけ止まる。


白い装束。


神殿の衣。


その姿を見て。


何故か安心した。


リノアは気付かない。


ハザムも気付かない。


しばらく沈黙。


やがてハザムが言う。


「生活に不便はないか」


「ありません」


「不足は」


「ありません」


模範解答。


だが。


どこか距離がある。


ハザムは書類を閉じた。


「何かあるな」


リノアの肩が少し震える。


沈黙。


長い沈黙。


やがて。


小さな声。


「……あります」


ハザムは黙って待つ。


リノアは窓を見る。


王都。


神殿。


その向こう。


市場。


人々。


そして。


ある青年。


「会いたい人がいます」


その瞬間。


空気が少しだけ変わった。


ハザムは表情を変えない。


だが。


胸の奥が僅かにざわつく。


理由は分からない。


リノアは続ける。


「その人といると」


「安心するんです」


「笑えるんです」


静かな告白だった。


恋だと。


まだ本人も気付いていない。


だが。


ハザムには分かった。


面白くなかった。


酷く。


面白くなかった。


沈黙。


そして。


ハザムは静かに言う。


「そうか」


それだけだった。


怒らない。


責めない。


だが。


その声は少しだけ冷たかった。


――


その日の夕方。


王都中央広場。


ユリウスは相変わらずだった。


老人の荷物を運び。


子供に遊ばれ。


困っている人を放っておけない。


そんな男。


「ユリウス!」


声。


振り返る。


リノアだった。


ユリウスの顔が明るくなる。


「リノアさん!」


リノアは少し笑う。


自然に。


本当に自然に。


ユリウスの前だけ。


それが出来た。


しばらく二人で歩く。


市場。


露店。


夕焼け。


平和な時間。


ユリウスが笑う。


「最近会えなかったですね」


リノアは少し迷う。


言うべきか。


言わないべきか。


だが。


結局。


言った。


「私」


「灰神皇様の側室になりました」


ユリウスの足が止まる。


沈黙。


夕風だけが吹く。


やがて。


ユリウスは笑った。


少し無理に。


「すごいじゃないですか」


リノアは苦しかった。


違う。


そんな顔を見たいんじゃない。


そんな言葉を聞きたいんじゃない。


ユリウスは続ける。


「おめでとうございます」


その笑顔が。


妙に悲しく見えた。


リノアは気付く。


胸が痛い。


初めて。


はっきりと。


理解してしまう。


自分は。


ユリウスと一緒にいたい。


神の隣じゃない。


世界の中心でもない。


ただ。


この人の隣がいい。


夕焼けの中。


リノアは黙ったまま立ち尽くす。


そして。


王城最上階。


窓辺のハザムは。


遠く。


二人の姿を静かに見つめていた。


胸の奥のざわめきは。


もう。


無視できないほど大きくなっていた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

第5章では、 これまでの「国家」「思想」「生存」とは違い、 “感情”をテーマに描いています。

ハザムは、 世界を救うことはできました。

ですが、 誰かを愛することや、 愛されることだけは、 最後まで理解しきれなかったのかもしれません。

そんな神の物語として、 続きを楽しんでいただけたら嬉しいです

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