↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/80

Episode 5-3 「空白」

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。


数日後。


王城。


最上階。


灰神皇私室。


そこへ呼び出された時。


リノアは少し驚いた。


神に最も近い場所。


誰もが憧れる場所。


なのに。


扉の向こうは静かだった。


豪華ではある。


だが。


どこか冷たい。


生活感がない。


人の気配がない。


まるで。


誰も住んでいない家みたいだった。


「入れ」


静かな声。


リノアが中へ入る。


窓際。


ハザムが外を見ていた。


王都。


神殿。


学校。


市場。


人々。


自分が作った世界。


それを眺めている。


だが。


どこか遠かった。


リノアは頭を下げる。


「お呼びでしょうか」


ハザムは振り返る。


相変わらず感情の薄い顔。


老いない男。


神。


人々はそう呼ぶ。


だが。


リノアには少し違って見えていた。


ハザムが言う。


「最近」


「神殿へ通っているらしいな」


「はい」


「何を祈る」


リノアは少し考える。


そして首を横へ振った。


「分かりません」


沈黙。


普通なら怒られそうな答えだった。


だが。


ハザムは怒らない。


「分からない?」


「はい」


リノアは窓の外を見る。


「平和だからでしょうか」


「皆幸せそうです」


「だから」


「祈る理由が見つからないんです」


ハザムは静かに聞いていた。


やがて。


小さく呟く。


「変わった女だ」


リノアは少し笑う。


「よく言われます」


ハザムは何故かその顔を見ていた。


笑顔。


自然な表情。


どこか懐かしい。


だが。


思い出せない。


その時。


リノアが聞いた。


「灰神皇様は」


「祈ったことがありますか」


沈黙。


風が吹く。


カーテンが揺れる。


ハザムはしばらく答えなかった。


やがて。


小さく言う。


「ない」


リノアは少し驚いた。


「一度も?」


「ああ」


「必要がなかった」


それは事実だった。


祈る相手がいない。


願う相手もいない。


ずっとそうだった。


リノアは静かに言う。


「寂しくないですか」


その瞬間。


空気が止まった。


側近たちですら聞かない。


聞けない。


そんな言葉だった。


だが。


リノアは本気で聞いていた。


ハザムは窓の外を見る。


王都。


何万人。


何十万人。


数え切れない命。


皆。


自分を信じている。


なのに。


ふと思う。


最後に。


誰かと食事をしたのはいつだったか。


最後に。


誰かと笑ったのはいつだったか。


思い出せない。


ハザムは静かに答える。


「分からない」


本音だった。


寂しいのか。


そうではないのか。


もう区別がつかない。


リノアは黙る。


そして。


少しだけ悲しそうな顔をした。


ハザムはその顔に違和感を覚える。


何故そんな顔をする。


自分は困っていない。


何も不足していない。


なのに。


リノアは今にも泣きそうだった。


やがて。


リノアは小さく言う。


「私は」


「少し寂しいと思います」


ハザムは目を細める。


「何故だ」


リノアは笑う。


少しだけ。


「だって」


「こんなに広い部屋なのに」


「誰もいないじゃないですか」


静寂。


その言葉だけが残った。


ハザムは答えない。


答えられない。


リノアは一礼する。


「失礼します」


そして部屋を出ていく。


扉が閉まる。


再び静寂。


広い部屋。


書類。


玉座。


窓の外の世界。


ハザムは一人だった。


その時。


ふと。


脳裏を掠める。


黒髪の女。


優しい笑顔。


『ホント遅い』


誰だったか。


思い出せない。


だが。


胸の奥が少しだけ痛んだ。


ハザムは静かに目を閉じる。


そして。


誰にも聞こえない声で呟いた。


「……そうか」


それが何に対する返事だったのか。


ハザム自身にも分からなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

第5章では、 これまでの「国家」「思想」「生存」とは違い、 “感情”をテーマに描いています。

ハザムは、 世界を救うことはできました。

ですが、 誰かを愛することや、 愛されることだけは、 最後まで理解しきれなかったのかもしれません。

そんな神の物語として、 続きを楽しんでいただけたら嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。