↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/80

Episode 5-2 「祈り」

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。


王都中央。


灰神大聖堂。


白い石柱が空へ伸びる。


巨大な礼拝堂。


無数の人々が祈りを捧げていた。


灰神へ。


平和へ。


明日へ。


静かな祈りの声が響く。


その最奥。


神像の前に、一人の女が跪いていた。


リノア。


白い髪。


静かな瞳。


祈る姿は絵画のようだった。


だが。


本人は困っていた。


何を祈ればいいのか分からない。


幸せだった。


住む場所もある。


食べる物もある。


戦争もない。


それなのに。


胸の奥だけが空っぽだった。


「……分からないな」


小さく呟く。


その時だった。


後ろから聞き覚えのある声がした。


「あ」


リノアが振り返る。


そこには。


少し困った顔の青年。


ユリウス。


両手には花束。


何故か大量。


リノアが首を傾げる。


「花屋ですか?」


ユリウスが苦笑する。


「違います」


「断れなくて」


「気付いたら全部買ってました」


リノアが数秒黙る。


そして。


少しだけ笑った。


ユリウスは目を丸くする。


「笑うんですね」


リノアは少し驚く。


そう言われるのは初めてだった。


ユリウスが隣へ座る。


礼拝堂の空気は静かだった。


不思議と居心地が悪くない。


ユリウスが神像を見上げる。


巨大な灰神像。


神々しい。


絶対的。


皆が憧れる存在。


だが。


ユリウスは首を傾げた。


「すごい人なんでしょうね」


リノアが聞く。


「信じていないんですか?」


「信じてますよ」


ユリウスは笑う。


「でも」


「すごい人だからって」


「寂しくない訳じゃないと思うんです」


リノアが止まる。


その言葉が妙に胸へ残った。


ユリウスは続ける。


「俺だったら嫌ですもん」


「世界中から見られるの」


「落ち着かない」


リノアが少し吹き出す。


ユリウスも笑う。


静かな時間だった。


やがて。


リノアが聞いた。


「家族はいますか?」


ユリウスは少し考える。


そして笑った。


「いません」


「孤児です」


あっけらかんと言う。


リノアは目を伏せる。


「ごめんなさい」


「何でです?」


ユリウスは本当に不思議そうだった。


「俺、結構幸せでしたよ」


「育ててくれた人もいましたし」


「友達もいました」


「お金はなかったですけど」


そして笑う。


「まあ今もないですけど」


リノアはまた笑った。


自分でも驚くほど自然に。


その顔を見て。


ユリウスも少し安心したように笑う。


「リノアさんは?」


沈黙。


リノアは神像を見上げた。


「分からないんです」


「家族も」


「生まれも」


「昔のことも」


「何も」


ユリウスは黙って聞いていた。


否定しない。


同情もしない。


ただ聞いている。


それだけだった。


リノアは不思議だった。


話しやすい。


今まで誰にも話したことがないのに。


その時。


礼拝堂の高窓から光が差し込む。


静かな時間。


誰も言葉を発しない。


だが。


居心地は良かった。


そして。


その様子を見ている者がいた。


大聖堂最上階。


誰も入れない回廊。


灰神皇ハザム・ヴェル。


静かに下を見下ろしている。


リノア。


ユリウス。


笑い合う二人。


その光景を見た瞬間。


胸の奥が僅かにざわついた。


理由は分からない。


理解もできない。


ただ。


面白くなかった。


ハザムは目を細める。


隣には紫衣卿。


「知り合いですか」


静かな問い。


ハザムは答えない。


しばらくして。


小さく呟いた。


「……いや」


本当に知らない。


だが。


目が離せなかった。


下では。


リノアが笑っていた。


その笑顔だけが。


妙に懐かしく見えた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

第5章では、 これまでの「国家」「思想」「生存」とは違い、 “感情”をテーマに描いています。

ハザムは、 世界を救うことはできました。

ですが、 誰かを愛することや、 愛されることだけは、 最後まで理解しきれなかったのかもしれません。

そんな神の物語として、 続きを楽しんでいただけたら嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。