Episode 4-7 「報告」
これは、 誰にも求められなかった男が、 神になってしまった物語。
勇者を倒し、 国を作り、 世界を救いながら。
少しずつ、 人間ではなくなっていく話です。
最近は、 裏社会編に入り、 奈落街や灰狼連など、 これまでとは違う“人間側”の空気感を強めています。
ハザム視点だけではなく、 「神の世界で生きる普通の人間」 も楽しんでもらえたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
灰神皇執務室。
巨大な窓の外では、王都の灯りが揺れている。
静かな夜だった。
部屋の中には。
紙の擦れる音だけが響いている。
灰神皇ハザム・ヴェルは、一人で書類を読んでいた。
属州報告。
感染統計。
交易推移。
世界の全てが、この部屋へ集まってくる。
なのに。
部屋は広すぎるほど静かだった。
その時。
扉が開く。
ノリア。
そしてガロウ。
後ろには紫衣卿セイゼル。
ノリアが頭を下げる。
「失礼します」
ガロウは頭を下げない。
部屋を見回し。
鼻で笑った。
「……神様の部屋にしちゃ、随分静かだな」
ノリアが顔を青くする。
「ガロウ!」
だが。
ハザムは気にしない。
視線も上げず、静かに言う。
「報告を」
ガロウは肩を鳴らす。
「薬屋潰した」
「終わり」
沈黙。
ノリアが慌てて補足する。
「《断鐘》拠点、鐘哭窟にて壊滅確認」
「感染拡大も沈静化へ向かっています」
「ただし胞子汚染区域は依然危険で――」
そこまで言って。
ノリアは止まる。
ハザムを見た。
机。
書類。
静かな横顔。
誰もいない部屋。
その姿が。
妙に。
孤独に見えた。
ハザムが小さく目を上げる。
「……どうした」
ノリアは我に返る。
「い、いえ」
だが。
声が少し揺れていた。
ガロウが煙草へ火をつける。
そして。
ノリアを横目で見る。
「お前」
「神様見る目変わったな」
ノリアが睨む。
「違います」
だが。
否定は弱かった。
ガロウは鼻で笑う。
「分かりやす」
ノリアが顔を赤くする。
「あなたは黙っててください!」
ハザムは静かに二人を見ていた。
怒りもない。
ただ。
観察するみたいに。
その時。
紫衣卿が前へ出る。
「《断鐘》残党は現在追跡中」
「外界武装勢力との接続も確認されています」
完全に事務的。
感情のない声。
だが。
ガロウを見る時だけ。
ほんのわずかに間がある。
ガロウが眉をひそめる。
「……何なんだよアンタ」
紫衣卿は静かに答える。
「紫衣卿セイゼル」
「現在の肩書きだ」
「いやそういう意味じゃ――」
ガロウが言いかけて止まる。
妙だった。
初対面のはずなのに。
この男と話していると。
妙に苛立つ。
妙に気になる。
理由が分からない。
ハザムが静かに口を開く。
「奈落街の統制は継続しろ」
ガロウが鼻で笑う。
「はいはい」
「便利屋扱いかよ」
ノリアが小さくため息をつく。
だが。
ハザムは静かに言った。
「お前は有能だ」
部屋が静まる。
ガロウが目を細める。
「……褒めても何も出ねぇぞ」
ハザムは少しだけ口元を緩めた。
本当に。
少しだけ。
ノリアは、その顔を見る。
驚いた。
神が笑った。
そんな気がした。
やがて。
報告は終わる。
ガロウが背を向ける。
「じゃあ帰る」
ノリアも一礼する。
だが。
扉の前で止まった。
振り返る。
ハザムを見る。
静かな部屋。
広すぎる空間。
書類の山。
その中央で、一人座る男。
ノリアは小さく呟く。
「……あなたは」
ハザムが視線を向ける。
ノリアは迷った。
だが。
聞いてしまう。
「寂しいんですか」
静寂。
ガロウが振り返る。
紫衣卿も止まる。
ハザムは、すぐには答えなかった。
窓の外を見る。
王都の灯り。
無数の人間。
笑い声。
命。
全部、自分が守っている。
なのに。
どこか遠い。
やがて。
ハザムが小さく言った。
「……何故そう思う」
否定ではなかった。
ノリアの胸が少し苦しくなる。
「誰より強いのに」
「誰より、一人に見えるからです」
沈黙。
その言葉が。
妙に深く刺さった。
シエル。
「ホント遅い」
昔の声が、脳裏を掠める。
ハザムは静かに目を閉じる。
そして。
小さく呟いた。
「……そうかもしれない」
その声は。
神のものではなく。
ただ少し疲れた男の声だった。
読んでいただきありがとうございます!
気付けばキャラもかなり増え、 国家レベルの話になってきましたが、 根本はずっと、
「人間って面倒くさい」
を書いてる気がします。
戦いも好きですが、 会話シーンや、 キャラ同士の距離感を書くのもかなり好きなので、 その辺楽しんでもらえたら嬉しいです!
次回もよろしくお願いします!




