Episode 4-4 「感染都市」
いつも読んでいただきありがとうございます。
『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。
主人公は決して善人ではありません。
ですが、悪人とも少し違います。
長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。
そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
奈落街は、一夜で変わった。
笑い声は消え。
代わりに響くのは。
悲鳴。
怒号。
爆発音。
《紅宴》。
その薬は、奈落街を確実に侵食していた。
――灰狼連拠点。
机の上へ、地図が広げられる。
赤印だらけだった。
感染区域。
爆砕発生地点。
密売確認場所。
どれも日に日に増えている。
オーガの幹部が低く言う。
「止まらねぇ」
「もう下層区だけじゃねぇぞ」
「中層まで広がってる」
別の男が吐き捨てる。
「クソ薬が」
「売人ども皆殺しにしても追いつかねぇ」
ガロウは黙ったまま煙草を吸っていた。
その横で。
ノリアが負傷者の報告書を読む。
顔色が悪い。
「感染速度が異常です……」
「しかも爆砕個体からの二次感染率が高すぎる」
ガロウが低く言う。
「つまり?」
ノリアは苦しそうに答える。
「奈落街全域が感染源になる可能性があります」
空気が凍る。
誰もが理解した。
このままなら。
街ごと焼かれる。
灰神圏はそういう国だ。
制御不能と判断すれば、切り捨てる。
その時だった。
外で悲鳴。
「感染者だ!!」
全員が飛び出す。
路地。
人だかり。
一人の女が倒れていた。
震えている。
周囲の人間たちが距離を取る。
女は泣きながら叫ぶ。
「違う……!」
「私はまだ……!」
次の瞬間。
腕が膨張する。
ノリアが叫ぶ。
「離れて!!」
爆砕。
肉片。
血。
壁へ叩きつけられた肉が蠢く。
その肉片へ触れた浮浪児が、突然苦しみ始める。
目が充血。
皮膚変色。
牙。
ガロウが舌打ちする。
「チッ!」
ナイフ。
一閃。
浮浪児の首が落ちる。
周囲が静まり返る。
ノリアが目を見開く。
「……子供ですよ」
ガロウは即答する。
「感染者だ」
冷たい声だった。
だが。
拳は少しだけ震えていた。
その時。
屋根の上。
紫衣卿セイゼルが静かに降り立つ。
「感染速度が加速している」
ノリアが振り返る。
「原因は?」
紫衣卿は小さく目を細めた。
「《紅宴》に含まれる胞子性魔菌」
「爆砕と同時に空気感染を起こしている」
ガロウが顔をしかめる。
「つまり?」
「街ごと兵器化している」
沈黙。
最悪だった。
奈落街は人口密集地帯。
感染爆弾としては理想的すぎる。
ノリアが低く言う。
「目的は……灰神圏内部崩壊」
紫衣卿が頷く。
「おそらく」
その時だった。
一人の情報屋が転がり込んでくる。
エルフの女。
血塗れ。
「見つけた……!」
息を切らしながら叫ぶ。
「薬の元締めだ……!」
ガロウの目が変わる。
「どこだ」
女が震える指で地図を指す。
奈落街最下層。
廃棄地下水路区域。
“鐘哭窟”。
奈落街でも最悪の場所だった。
昔の処刑場跡。
今では誰も近づかない。
情報屋が続ける。
「外の連中……《断鐘》……」
「そこを拠点にしてる……」
「薬も……感染者も……全部そこから……」
その瞬間。
遠くでまた爆発音。
窓が震える。
誰かが叫ぶ。
「また爆ぜたぞ!!」
奈落街は、もう限界だった。
ガロウが静かにナイフを抜く。
殺気。
怒り。
「……行くぞ」
ノリアが見る。
「単独突入は危険です」
ガロウは笑う。
獣みたいに。
「危険じゃねぇ仕事なんて、この街にねぇよ」
紫衣卿が静かに二人を見る。
その目は。
どこか昔を思い出すようだった。
理想家。
革命家。
そして。
無茶をする若者。
ほんのわずかに。
胸の奥が痛んだ気がした。
だが。
その理由は、もう思い出せない。
奈落街の奥。
鐘哭窟。
暗闇の中で。
誰かが静かに笑っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。
この作品は、戦いや能力だけではなく、
「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」
を描いていけたらと思っています。
よければ感想などいただけると励みになります。
次回もよろしくお願いします。




