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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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26/80

Episode 4-3 「紅宴」

ここまで読んでいただきありがとうございました。

少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。

この作品は、戦いや能力だけではなく、

「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」

を描いていけたらと思っています。

よければ感想などいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。


奈落街。


夜。


いつもなら騒がしい地下酒場が、妙に静かだった。


理由は簡単。


最近、“新しい薬”が流れ始めたからだ。


「《紅宴》って知ってるか?」


薄暗い席で、獣人の男が囁く。


向かいのエルフが煙を吐いた。


「あぁ」


「ヤベぇらしいな」


「飛ぶって話だ」


酒場の空気は重い。


奈落街では、薬そのものは珍しくない。


だが。


今回のは違った。


効き目が強すぎる。


一度使えば、恐怖が消える。


痛みも。


飢えも。


不安も。


全部。


まるで。


“幸福だけ”が残る。


だから流行った。


一瞬で。


――灰狼連拠点。


ガロウは机へ大量の薬袋を叩きつける。


赤黒い錠剤。


まるで血の塊みたいだった。


「どこから流れてきた」


周囲の幹部たちが目を逸らす。


オーガの男が低く言う。


「外だ」


「帝国外の密輸組織」


「最近一気に流れ込んできた」


ガロウは舌打ちする。


「ウチの縄張りで勝手やってんじゃねぇぞ」


その時。


外から怒鳴り声が響いた。


「助けろ!!」


全員が立ち上がる。


路地へ飛び出す。


人だかり。


悲鳴。


その中央。


一人の男が笑っていた。


異常なほど。


幸せそうに。


「は、はは……」


「最高だ……」


目は完全にイッている。


腕には無数の注射痕。


紅宴使用者だった。


ガロウが近づく。


「おい」


男が笑いながら振り返る。


その瞬間。


膨張した。


肉が。


骨が。


血管が。


「――ッ!?」


ノリアが目を見開く。


次の瞬間。


爆砕。


肉片。


血。


内臓。


周囲へ飛び散る。


悲鳴が上がる。


だが。


終わりじゃなかった。


肉片を浴びた男が、突然喉を掻きむしる。


皮膚が黒く変色。


目が充血。


牙みたいに歯が伸びる。


「ガ……ァ……」


凶暴化。


周囲へ襲いかかる。


奈落街が地獄になる。


「感染だ!!」


ノリアが叫ぶ。


法陣展開。


光の鎖で感染者を拘束する。


だが。


数が多い。


次々と暴れ出す。


ガロウが舌打ちする。


「クソが……!」


ナイフを抜く。


感染者の喉を切り裂く。


それでも止まらない。


痛覚が飛んでいる。


完全に狂っていた。


その時。


屋根の上。


紫色の衣が揺れる。


紫衣卿セイゼル。


静かに奈落街を見下ろしていた。


「……やはり」


ノリアが叫ぶ。


「紫衣卿!」


紫衣卿は淡々と言う。


「これは薬ではない」


「兵器だ」


ガロウが睨む。


「誰が流した」


紫衣卿は少し沈黙した。


「帝国外武装組織《断鐘》」


「灰神圏 destabilization を目的としている」


ガロウが眉をひそめる。


「……何語だよ」


ノリアが小さく咳払いする。


「“帝国 destabilization”……帝国混乱化計画です」


ガロウは鼻で笑う。


「要するに舐められてんだろ」


紫衣卿は否定しない。


その時だった。


遠くで爆発音。


別地区。


炎が上がる。


悲鳴。


奈落街全域へ紅宴がばら撒かれていた。


ノリアの顔が険しくなる。


「封鎖しないと……!」


ガロウが即答する。


「無理だ」


「この街は広すぎる」


そして。


低く呟く。


「だったら元締め潰す」


紫衣卿が静かにガロウを見る。


その目には。


ほんのわずかに興味があった。


「……行くのか」


ガロウは煙草へ火をつける。


血と煙の臭いの中。


笑う。


獣みたいに。


「俺の街で商売したんだ」


「落とし前は必要だろ」


その瞬間。


奈落街の奥で。


また誰かが爆砕した。

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。

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