Episode 4-2 「取引」
いつも読んでいただきありがとうございます。
『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。
主人公は決して善人ではありません。
ですが、悪人とも少し違います。
長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。
そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
奈落街地下闘技場。
血。
酒。
歓声。
熱気。
リング中央では、ガロウが煙草を咥えたまま笑っていた。
向かいには。
白銀の外套を纏った女。
シリア法守護者、ノリア。
観客たちはざわついている。
「マジでやるのか?」
「法守護者と?」
「死ぬぞ灰狼……」
だが。
ガロウは笑っていた。
楽しそうに。
「で?」
煙を吐く。
「取引したいんだっけ?」
ノリアは真っ直ぐ見返す。
「ええ」
ガロウは鼻で笑う。
「弱ぇ奴とは組まねぇ」
空気が変わる。
挑発。
完全な。
ノリアの眉がわずかに動く。
「……なら」
静かに剣を抜く。
細い銀剣。
空気が張り詰める。
「証明します」
歓声が爆発した。
「始まるぞ!!」
「法守護者だ!!」
「殺れぇぇ!!」
ガロウは笑う。
腰のナイフを抜く。
短い。
汚い。
完全に路地裏の武器。
「いいねぇ」
「国家様の剣っての見せてみろよ」
次の瞬間。
ノリアが消えた。
速い。
踏み込み。
銀閃。
ガロウが咄嗟に反る。
頬が裂ける。
血。
観客がどよめく。
「速ぇ!!」
ノリアは止まらない。
連撃。
正確。
無駄がない。
完全に訓練された剣。
ガロウが後退する。
だが。
笑っていた。
「綺麗すぎんだろ」
次の瞬間。
ガロウが椅子を蹴り飛ばす。
ノリアの視界が塞がれる。
その隙。
低姿勢。
懐へ潜る。
ナイフ。
ノリアが剣で弾く。
火花。
だが。
ガロウは止まらない。
頭突き。
膝蹴り。
肘。
完全な喧嘩だった。
ノリアが距離を取る。
「卑怯です!」
ガロウが笑う。
「生き残った方が正義だろ」
その瞬間。
観客席の照明が割れる。
暗闇。
悲鳴。
ノリアが目を見開く。
「っ――!」
背後。
ガロウ。
ナイフが首筋へ迫る。
だが。
ノリアの瞳が蒼く光る。
加護。
法陣展開。
衝撃波。
ガロウが吹き飛ぶ。
観客席へ叩きつけられる。
歓声。
「法術だ!!」
「すげぇ!!」
ガロウは血を吐きながら立ち上がる。
笑っていた。
「……いいじゃねぇか」
ノリアも息を乱している。
実戦経験。
それが違った。
訓練ではない。
この男は、“生き残り”で強くなっている。
ノリアは剣を構え直す。
ガロウもナイフを逆手へ持つ。
空気が変わる。
今度は本気。
殺気。
観客たちすら黙り始める。
次の瞬間。
二人が同時に踏み込んだ。
その時だった。
「――そこまでだ」
静かな声。
なのに。
空気が凍った。
全員が動きを止める。
観客席奥。
暗闇の中。
紫色の衣。
紫衣卿セイゼル。
奈落街全体が静まり返る。
誰も騒がない。
誰も逆らわない。
裏社会ですら。
この男だけは別格だった。
ガロウが目を細める。
「……神の犬か」
紫衣卿は怒らない。
ただ静かにリングへ降りてくる。
魔導義肢の足音。
コツ。
コツ。
静寂の中へ響く。
ノリアが頭を下げる。
「紫衣卿」
紫衣卿は小さく頷く。
それから。
ガロウを見る。
その瞬間。
胸の奥に。
妙なノイズが走った。
灰色の髪。
鋭い目。
反抗的な顔。
何かを思い出しそうになる。
だが。
霧みたいに消える。
紫衣卿は静かに言った。
「取引成立と判断する」
ガロウが鼻で笑う。
「勝手に決めんな」
「俺はまだ――」
「お前は断らない」
即答だった。
ガロウの目が細くなる。
紫衣卿は続ける。
「奈落街を守りたい」
「仲間を守りたい」
「違うか?」
沈黙。
図星だった。
ガロウが煙草へ火をつける。
そして。
煙を吐きながら言う。
「……気に入らねぇな」
紫衣卿は静かだった。
「それでいい」
その言葉に。
ガロウは妙に苛立つ。
初対面なのに。
なぜか。
殴りたくなる。
ノリアが静かに言う。
「これからは協力関係です」
ガロウは肩を鳴らす。
「へいへい」
「よろしくな、国家様」
紫衣卿は背を向ける。
だが。
去り際。
本当に小さく呟いた。
「……似ている」
ガロウが眉をひそめる。
「……あ?」
だが。
紫衣卿はもう振り返らなかった。
紫色の衣だけが。
奈落街の闇へ静かに消えていった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。
この作品は、戦いや能力だけではなく、
「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」
を描いていけたらと思っています。
よければ感想などいただけると励みになります。
次回もよろしくお願いします。




