Episode 4-1 「奈落街」
いつも読んでいただきありがとうございます。
『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。
主人公は決して善人ではありません。
ですが、悪人とも少し違います。
長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。
そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
灰神圏王都外縁。
混血街区――奈落街。
そこには、帝国の“裏側”が集まっていた。
違法闘技場。
密輸。
娼館。
賭博。
傭兵。
戸籍を持たない混血種。
国に適応できなかった者たち。
表の灰神圏が“光”なら。
ここは“影”だった。
だが。
人は生きている。
笑い。
怒鳴り。
酒を飲み。
殴り合い。
欲望を剥き出しにして。
泥みたいに。
必死に。
「――ガロウ!!」
怒号が響く。
地下闘技場。
観客席では、オーガもエルフも獣人も入り混じって熱狂していた。
血の匂い。
酒。
歓声。
リング中央では、一人の少年が男を殴り倒している。
灰色の髪。
鋭い目。
十六歳。
ガロウ。
相手は大柄な獣人だった。
だが。
ガロウは躊躇なく顔面へ膝を叩き込む。
骨が砕ける音。
男が沈む。
歓声が爆発した。
「やりやがった!!」
「また勝ったぞ灰狼!!」
「若頭補佐!!」
ガロウは倒れた相手を見下ろす。
そして。
唾を吐いた。
「弱ぇ」
観客たちが笑う。
だが。
その目は鋭い。
この街では、“舐められたら終わり”だ。
その時だった。
闘技場の奥で騒ぎが起こる。
「法守護者だ!!」
空気が変わる。
入口から、白銀の外套を纏った女が現れる。
長い黒髪。
冷たい目。
腰には細身の剣。
シリア法守護者。
ノリア。
灰神圏治安維持局直属。
国家公認の執行者。
観客たちがざわつく。
「なんでこんな所に……」
「やべぇぞ」
「今日は摘発か?」
だが。
ノリアの視線は最初から一人へ向いていた。
ガロウ。
二人の目がぶつかる。
ガロウは鼻で笑う。
「国家の犬が、裏街見学か?」
周囲が凍る。
普通なら。
その場で斬られてもおかしくない。
だが。
ノリアは静かだった。
「灰狼連若頭補佐、ガロウ」
「違法闘技運営」
「密輸支援」
「暴行傷害」
「その他多数」
淡々と読み上げる。
ガロウは肩を鳴らす。
「へぇ」
「ちゃんと調べてんじゃん」
ノリアは続ける。
「ですが今回は逮捕ではありません」
観客たちがざわつく。
ガロウが眉をひそめる。
「……あ?」
ノリアは真っ直ぐ言った。
「取引です」
空気が変わる。
裏社会で。
“取引”という言葉は重い。
ガロウはゆっくりリングを降りる。
近づく。
かなり近くまで。
ノリアも動かない。
「誰の命令だ?」
ノリアは少しだけ沈黙した。
それから。
静かに答える。
「紫衣卿」
その名前が出た瞬間。
奈落街の空気が変わった。
紫衣卿セイゼル。
灰神皇側近。
知略と統治を司る怪物。
裏社会ですら恐れられる存在。
ガロウは目を細める。
「……神の側近が」
「俺に何の用だ」
ノリアは静かに言った。
「奈落街をまとめてください」
観客たちが息を呑む。
ガロウは数秒黙る。
それから。
腹を抱えて笑った。
「ははっ……!」
「おもしれぇこと言うな」
だが。
ノリアは笑わない。
「最近、“外”から流れてきた連中が増えている」
「武器」
「薬物」
「違法奴隷」
「灰神圏外の勢力も確認されています」
ガロウの笑みが少し消える。
それはつまり。
この街が荒れる。
自分たちの縄張りが壊れるということだった。
ノリアが静かに言う。
「あなたは、この街で最も人望がある」
「だから頼みます」
その言葉に。
ガロウは少しだけ違和感を覚えた。
“命令”じゃない。
“頼む”。
国家側の人間が。
そんな言葉を使うのは珍しかった。
ガロウは煙草へ火をつける。
そして。
煙を吐きながら言った。
「断ったら?」
ノリアは即答する。
「私があなたを潰します」
沈黙。
そして。
ガロウはニヤリと笑った。
「……いい目してんな、姉ちゃん」
ノリアの眉がわずかに動く。
その時だった。
観客席奥。
暗闇の中。
紫色の衣が揺れる。
紫衣卿セイゼル。
誰にも気づかれず。
静かに立っていた。
その目は。
ただ一人。
ガロウだけを見ている。
どこか。
懐かしむみたいに
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。
この作品は、戦いや能力だけではなく、
「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」
を描いていけたらと思っています。
よければ感想などいただけると励みになります。
次回もよろしくお願いします。




