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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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22/80

Episode 3-7 「痛み」

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。


夜。


灰神皇執務室。


巨大な窓の外では、王都の灯りが揺れている。


歓声。


音楽。


笑い声。


今日も灰神圏は平和だった。


その部屋の中央で。


シエルは、黙ったまま立っていた。


向かいには。


灰神皇ハザム・ヴェル。


その後ろには、


白騎士レグオン。


黒騎士ヴァズ。


紫衣卿セイゼル。


神の側近たち。


完全な帝国。


だが。


シエルだけは違った。


「……満足ですか」


低い声だった。


ハザムは静かに書類を見ている。


「自由灯団残党の鎮圧は完了した」


「治安指数も回復している」


「西部属州の暴動率も――」


乾いた音が響く。


パァン――。


部屋が静まり返った。


シエルの手が震えている。


ハザムの頬には、赤い跡。


白騎士も。


黒騎士も。


紫衣卿も。


誰も動かない。


シエルは荒い息で睨んでいた。


「……最低」


ハザムは少しだけ目を瞬かせる。


本当に。


少し驚いた顔だった。


「何故だ」


シエルの顔が歪む。


「何故って……!」


「あなた……!」


声が震えていた。


怒りなのか。


悲しみなのか。


もう自分でも分かっていない。


ハザムは静かに言う。


「国家反逆罪だ」


「お前が作った法律でもある」


正論だった。


完璧な。


国家としての正解。


だが。


シエルは叫ぶ。


「そういう話じゃない!!」


部屋の空気が震える。


シエルの目には涙が滲んでいた。


「法律とか!」


「正しいとか!」


「そんなことじゃなくて!!」


ハザムは黙る。


シエルは続ける。


「セイジは……!」


喉が詰まる。


「人だったでしょうが!!」


静寂。


その言葉だけが、部屋へ残る。


人。


昔。


自分もそう呼ばれていた気がする。


ハザムの目が、ほんの少しだけ揺れる。


だが。


遠い。


あまりにも遠かった。


シエルが苦しそうに言う。


「あなたは……」


「何でそんな顔してるんですか……」


ハザムは答えない。


感情が薄い。


怒りも。


悲しみも。


ほとんど消えている。


それが。


シエルには耐えられなかった。


「何で平気なんですか……!」


「何でそんな静かなんですか!!」


沈黙。


やがて。


ハザムが小さく呟く。


「……間違っていたか?」


その声は。


本気だった。


シエルが目を見開く。


この男は。


まだ分かっていない。


何を失ったのか。


どこまで壊れたのか。


シエルは唇を震わせる。


「間違いとかじゃない……」


「あなたはもう……」


続きを言えなかった。


神。


魔王。


救世主。


化け物。


どれも違う気がした。


ただ。


もう、人ではない。


それだけが苦しかった。


シエルは顔を伏せる。


涙が落ちる。


紫衣卿セイゼルは、その光景を無表情で見ていた。


だが。


魔導義肢の指先だけが、わずかに動く。


昔。


自分も。


こんな風に怒ってくれる誰かが欲しかった気がした。


やがてシエルは背を向ける。


「……今日は、もう帰ります」


誰も止めない。


扉が閉まる。


静寂。


王都の灯りだけが揺れている。


ハザムは、一人静かに立っていた。


そして。


自分の頬へ触れる。


熱が残っている。


痛み。


そんなもの。


いつ以来だったか。


ハザムは小さく呟く。


「……痛いな」


その声は。


どこか少しだけ。


寂しそうだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。

この作品は、戦いや能力だけではなく、

「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」

を描いていけたらと思っています。

よければ感想などいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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