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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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21/80

Episode 3-6 「紫衣卿」

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。


王都中央広場。


灰神圏最大の処刑場には、大勢の民衆が集まっていた。


雨上がりの空。


石畳。


張り詰めた空気。


広場中央には、五人の罪人が跪かされている。


自由灯団幹部。


かつてセイジと共に戦った者たちだった。


痩せ細り。


傷だらけ。


それでも目だけは死んでいない。


民衆から怒号が飛ぶ。


「反逆者!!」


「平和を乱すな!!」


「灰神圏に逆らうからだ!」


石まで投げられる。


その様子を、高台から静かに見下ろす男がいた。


灰神皇ハザム・ヴェル。


その後ろには、


黒騎士ヴァズ。


白騎士レグオン。


そして。


新たな側近。


紫衣卿セイゼル。


紫黒の長衣。


細い身体。


魔導義肢。


知的な目。


かつて“セイジ”と呼ばれた男。


だが今、その面影は薄い。


広場へ静寂が落ちる。


処刑執行の時間だった。


紫衣卿がゆっくり前へ出る。


民衆が歓声を上げた。


「紫衣卿様だ!」


「国家を守ってくださった!」


「灰神圏万歳!!」


その歓声を、セイゼルは静かに聞いている。


感情は薄い。


まるで他人事だった。


自由灯団幹部の一人が顔を上げる。


血だらけの男だった。


その目が、紫を見る。


そして。


凍りつく。


「……セイジ?」


周囲がざわつく。


紫衣卿は静かに男を見る。


それから、淡々と答えた。


「その名称は廃棄されました」


男の顔が歪む。


「お、お前……」


「なんで……」


紫衣卿は書類を開く。


声に感情はない。


「被告人らは、国家反逆罪」


「騒乱扇動罪」


「武装蜂起罪」


「多数殺害罪により――」


一拍。


「死刑」


民衆が歓声を上げる。


だが。


幹部たちだけは、紫を見ていた。


信じられないものを見る目で。


男が叫ぶ。


「ふざけんな!!」


「お前が始めたんだろ!!」


兵士が男の頭を押さえつける。


それでも男は叫ぶ。


「自由を!」


「考える権利をって!」


「お前が――!!」


紫衣卿は黙っていた。


ただ静かに見ている。


まるで。


遠い昔の話みたいに。


処刑人たちが剣を構える。


その時だった。


一人の幹部の猿ぐつわが外れる。


若い女だった。


泣きながら紫を見る。


「セイジ……!」


その声に。


紫衣卿の指が、ほんのわずかに止まる。


女は叫ぶ。


涙と血を流しながら。


「目を覚ませぇぇぇぇぇ!!!」


広場が静まり返る。


「お前は!!」


「そんな奴じゃなかっただろぉぉぉ!!!」


絶叫。


断末魔みたいだった。


一瞬。


紫衣卿の目が揺れる。


本当に、一瞬だけ。


昔。


地下室で理想を語っていた時間。


若者たち。


自由。


怒り。


希望。


その残骸が、頭の奥を掠める。


だが。


次の瞬間。


処刑剣が振り下ろされた。


血が飛ぶ。


静寂。


民衆は歓声を上げる。


「さすが灰神圏!!」


「反逆者に裁きを!!」


「平和を守れ!!」


その声を聞きながら。


紫衣卿は静かに立っていた。


感情は薄い。


だが。


魔導義肢の指先だけが、わずかに震えていた。


高台の上。


シエルが、その姿を見る。


苦しそうに。


「……あなたは」


小さく呟く。


「本当に、これで良かったんですか」


紫衣卿は振り返らない。


ただ静かに答える。


「国家安定のためです」


その答えは。


昔のセイジが、最も嫌っていた言葉だった。


夕日が広場を赤く染める。


処刑台の血を。


歓声を。


そして。


神の帝国を。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。

この作品は、戦いや能力だけではなく、

「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」

を描いていけたらと思っています。

よければ感想などいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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