Episode 3-6 「紫衣卿」
いつも読んでいただきありがとうございます。
『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。
主人公は決して善人ではありません。
ですが、悪人とも少し違います。
長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。
そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
王都中央広場。
灰神圏最大の処刑場には、大勢の民衆が集まっていた。
雨上がりの空。
石畳。
張り詰めた空気。
広場中央には、五人の罪人が跪かされている。
自由灯団幹部。
かつてセイジと共に戦った者たちだった。
痩せ細り。
傷だらけ。
それでも目だけは死んでいない。
民衆から怒号が飛ぶ。
「反逆者!!」
「平和を乱すな!!」
「灰神圏に逆らうからだ!」
石まで投げられる。
その様子を、高台から静かに見下ろす男がいた。
灰神皇ハザム・ヴェル。
その後ろには、
黒騎士ヴァズ。
白騎士レグオン。
そして。
新たな側近。
紫衣卿セイゼル。
紫黒の長衣。
細い身体。
魔導義肢。
知的な目。
かつて“セイジ”と呼ばれた男。
だが今、その面影は薄い。
広場へ静寂が落ちる。
処刑執行の時間だった。
紫衣卿がゆっくり前へ出る。
民衆が歓声を上げた。
「紫衣卿様だ!」
「国家を守ってくださった!」
「灰神圏万歳!!」
その歓声を、セイゼルは静かに聞いている。
感情は薄い。
まるで他人事だった。
自由灯団幹部の一人が顔を上げる。
血だらけの男だった。
その目が、紫を見る。
そして。
凍りつく。
「……セイジ?」
周囲がざわつく。
紫衣卿は静かに男を見る。
それから、淡々と答えた。
「その名称は廃棄されました」
男の顔が歪む。
「お、お前……」
「なんで……」
紫衣卿は書類を開く。
声に感情はない。
「被告人らは、国家反逆罪」
「騒乱扇動罪」
「武装蜂起罪」
「多数殺害罪により――」
一拍。
「死刑」
民衆が歓声を上げる。
だが。
幹部たちだけは、紫を見ていた。
信じられないものを見る目で。
男が叫ぶ。
「ふざけんな!!」
「お前が始めたんだろ!!」
兵士が男の頭を押さえつける。
それでも男は叫ぶ。
「自由を!」
「考える権利をって!」
「お前が――!!」
紫衣卿は黙っていた。
ただ静かに見ている。
まるで。
遠い昔の話みたいに。
処刑人たちが剣を構える。
その時だった。
一人の幹部の猿ぐつわが外れる。
若い女だった。
泣きながら紫を見る。
「セイジ……!」
その声に。
紫衣卿の指が、ほんのわずかに止まる。
女は叫ぶ。
涙と血を流しながら。
「目を覚ませぇぇぇぇぇ!!!」
広場が静まり返る。
「お前は!!」
「そんな奴じゃなかっただろぉぉぉ!!!」
絶叫。
断末魔みたいだった。
一瞬。
紫衣卿の目が揺れる。
本当に、一瞬だけ。
昔。
地下室で理想を語っていた時間。
若者たち。
自由。
怒り。
希望。
その残骸が、頭の奥を掠める。
だが。
次の瞬間。
処刑剣が振り下ろされた。
血が飛ぶ。
静寂。
民衆は歓声を上げる。
「さすが灰神圏!!」
「反逆者に裁きを!!」
「平和を守れ!!」
その声を聞きながら。
紫衣卿は静かに立っていた。
感情は薄い。
だが。
魔導義肢の指先だけが、わずかに震えていた。
高台の上。
シエルが、その姿を見る。
苦しそうに。
「……あなたは」
小さく呟く。
「本当に、これで良かったんですか」
紫衣卿は振り返らない。
ただ静かに答える。
「国家安定のためです」
その答えは。
昔のセイジが、最も嫌っていた言葉だった。
夕日が広場を赤く染める。
処刑台の血を。
歓声を。
そして。
神の帝国を。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。
この作品は、戦いや能力だけではなく、
「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」
を描いていけたらと思っています。
よければ感想などいただけると励みになります。
次回もよろしくお願いします。




