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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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20/80

Episode 3-5 「紫」

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。


灰神圏西部。


廃都ルガーン。


自由灯団最後の拠点。


崩れた石造建築。


雨漏りする天井。


痩せ細った兵士たち。


革命は、もう理想ではなかった。


生き残りだった。


部下の一人が低く言う。


「また支部が潰されました」


「南部も沈黙です」


別の男が吐き捨てる。


「民衆も終わってる」


「俺たちを“危険思想家”扱いだ」


誰も反論しない。


灰神圏は豊かだった。


飯が食える。


治安もいい。


子供は学べる。


だから。


革命は嫌われる。


セイジは静かに地図を見ていた。


疲れている。


痩せた。


目の下には深い隈。


だが。


目だけは死んでいなかった。


「……当然だ」


部下たちが顔を上げる。


セイジは淡々と言った。


「人は自由より平穏を選ぶ」


「多数派は、いつもそうだ」


その言葉は。


昔のセイジなら絶対に言わなかった。


その時だった。


空間が裂けた。


全員が武器を構える。


黒い亀裂。


そこから現れたのは。


灰神皇ハザム・ヴェル。


白騎士レグオン。


黒騎士ヴァズ。


そして。


女官シエル。


空気が張り詰める。


だが。


ハザムは静かだった。


「……話をしに来た」


セイジが笑う。


疲れた笑いだった。


「神が直々に説教か?」


ハザムは答えない。


代わりにシエルが前へ出る。


「あなたは間違っています、セイジ」


即答だった。


セイジも引かない。


「そっちこそ」


シエルの目は真剣だった。


「灰神圏は人を救った」


「教育も」


「医療も」


「治安も」


「実際に、多くの命が救われてる」


セイジは静かに言う。


「でも自由は死んだ」


空気が止まる。


シエルが言い返す。


「理想だけで人は生きられません」


「現実を見てください」


「見てるのはそっちだ」


セイジの声が強くなる。


「管理された平和を、“正解”だと思い込み始めてる!」


「それは支配だ!」


シエルが唇を噛む。


本当は分かっている。


灰神圏は、完成されすぎている。


疑問より安心。


自由より安定。


そういう国になり始めている。


セイジが低く言う。


「人は間違える権利が必要なんだ」


「失敗しても」


「苦しんでも」


「自分で選ばなきゃ意味がない」


沈黙。


この瞬間だけは。


セイジの方が正しく見えた。


自由灯団の団員たちも。


シエルでさえも。


言葉を返せなかった。


その時。


ハザムが初めて口を開く。


「……優秀だな」


全員がハザムを見る。


ハザムは静かにセイジを見ていた。


怒りはない。


敵意もない。


ただ。


純粋な評価。


「お前はよく見えている」


「国家も」


「人も」


「俺も」


セイジの背筋に、嫌なものが走る。


ハザムは続ける。


「だから危険だ」


その瞬間。


空間が歪む。


次の瞬間だった。


天井。


床。


壁。


無数の赤い目が現れる。


ゴブリン。


大量だった。


自由灯団が叫ぶ。


「敵襲!!」


混乱。


悲鳴。


血。


セイジが怒鳴る。


「ハザム!!」


だが。


もう遅かった。


ゴブリン部隊が、統率された軍隊のように襲いかかる。


その瞬間。


黒騎士が動く。


速すぎた。


斬撃。


セイジの右腕が飛ぶ。


血が舞う。


絶叫。


さらに白騎士。


左脚が断たれる。


セイジが崩れ落ちる。


部下たちが叫びながら突っ込む。


だが。


ゴブリンの群れが呑み込む。


数。


圧倒的な物量。


セイジは血の中で、ハザムを睨む。


「……結局」


「暴力か」


ハザムは静かに答える。


「国家とはそういうものだ」


セイジの視界が揺れる。


それでも。


まだ目は死んでいない。


ハザムが、その前へしゃがみ込む。


「殺せ」


セイジが吐き捨てる。


だが。


ハザムは首を横へ振った。


「惜しい」


その言葉に。


セイジは初めて、本気で恐怖した。


自分は。


死なせてもらえない。


ハザムが静かに手を伸ばす。


紫色の光。


肉。


骨。


神経。


失われた四肢へ、魔導義肢が形成されていく。


紫。


知性の色。


支配の色。


シエルが苦しそうに目を伏せる。


「……やめて」


ハザムは止まらない。


「思想は消えない」


「なら管理する」


セイジの意識が遠のく。


最後に見えたのは。


静かなハザムの目だった。


そして。


その目は。


どこか哀しそうだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。

この作品は、戦いや能力だけではなく、

「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」

を描いていけたらと思っています。

よければ感想などいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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