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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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19/80

Episode 3-4 「泥の戦争」

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。


セイジが“自由灯団”を結成してから、五年。


灰神圏の裏側では、静かな戦争が続いていた。


爆破。


暗殺。


焼き討ち。


補給路襲撃。


革命は、いつの間にか泥だらけの消耗戦へ変わっていた。


――西部山岳地帯。


自由灯団前線拠点。


雨。


泥。


疲弊した団員たち。


その空気を切り裂くように、伝令兵が駆け込んでくる。


「報告!!」


全員が顔を上げる。


伝令兵は息を切らしながら叫んだ。


「北西属州、黒騎士討伐作戦成功!!」


ざわめきが走る。


「黒騎士を……?」


「本当に?」


伝令兵が頷く。


だが、その顔に喜びは薄い。


「死者多数……!」


「討伐部隊、壊滅状態です……!」


歓声は上がらなかった。


皆、理解している。


勝っても、人が死にすぎる。


それが今の戦争だった。


だが。


セイジは静かに前を見る。


「……それでも前進だ」


視線の先。


山道の向こう。


白い影が歩いてくる。


白騎士レグオン。


純白の甲冑。


無言。


感情もない。


ただ静かに進軍してくる。


その姿を見た瞬間。


若い団員が震えた。


「白騎士……」


「本当に来やがった……」


セイジは静かに手を上げる。


「配置につけ」


山岳地帯全域へ、無数の罠が仕掛けられていた。


地雷。


崩落用火薬。


油。


毒煙。


正面では勝てない。


だから。


殺し切る。


白騎士が谷へ入った瞬間。


セイジが手を振る。


轟音。


山が爆ぜた。


崩落。


岩石が白騎士へ降り注ぐ。


さらに火炎瓶。


矢。


魔導爆雷。


徹底的なゲリラ戦。


白騎士が炎の中から現れる。


片腕を失っていた。


それでも止まらない。


団員たちの顔が引きつる。


「なんだよ……あれ……」


セイジが叫ぶ。


「止めるな!!」


追加爆破。


白騎士の脚が砕ける。


崩れる。


なおも剣を振るう。


何人もの団員が斬り裂かれた。


血。


泥。


炎。


悲鳴。


それでも自由灯団は攻撃を止めない。


最後の爆雷。


直撃。


白い甲冑が吹き飛ぶ。


静寂。


動かない。


完全停止。


団員たちが息を呑む。


やがて。


歓声が上がった。


「やった……!」


「白騎士を倒した!!」


泣き崩れる者もいた。


五年間。


逃げ続け。


隠れ続け。


仲間を失い続けた。


その果ての勝利だった。


セイジは、崩れた白騎士を静かに見下ろす。


レオン。


かつて世界を救おうとした勇者。


その末路がこれだった。


「……こんな姿で」


セイジが小さく呟く。


「残されるために戦ったんじゃないだろ」


その時だった。


一人の通信兵が駆け込んでくる。


顔面蒼白だった。


「報告!!」


歓声が止まる。


「黒騎士討伐部隊と……連絡が途絶しました……!」


空気が凍る。


セイジがゆっくり振り返る。


「……何?」


通信兵の声が震えていた。


「確認部隊も戻りません……!」


その瞬間だった。


空間が裂けた。


バキリ、と。


空そのものに黒い亀裂が走る。


全員が凍りつく。


裂け目の向こうは、真っ暗だった。


そして。


そこから、二つの影が現れる。


黒い衣。


灰神皇ハザム・ヴェル。


その隣。


黒騎士ヴァズ。


無傷で。


静かに立っていた。


誰かが腰を抜かす。


「……うそ、だろ」


セイジも言葉を失う。


ハザムは静かに周囲を見る。


死体。


炎。


破壊された白騎士。


それを見て、小さく呟く。


「……損耗が激しいな」


まるで。


壊れた道具でも見ているみたいに。


ハザムは、崩れた白騎士へ歩いていく。


焼けた鎧。


砕けた肉。


完全に死んでいた。


だが。


ハザムが、その頭へ手を置く。


空間が歪む。


肉が蠢く。


骨が鳴る。


白い装甲が再生していく。


団員たちが後退る。


誰かが吐いた。


白騎士が。


ゆっくり立ち上がる。


前より滑らかに。


前より静かに。


前より、“完成された兵器”として。


セイジが叫ぶ。


「命を……!」


声が震えていた。


「何だと思ってる!!」


ハザムは静かにセイジを見る。


その目に怒りはない。


ただ。


遠い。


「違うのか?」


セイジの顔が歪む。


「それは生き返ることじゃない!」


「死を否定してるだけだ!!」


雨が強くなる。


泥の中。


白騎士と黒騎士が、ハザムの後ろへ並ぶ。


完全に。


魔王軍だった。


セイジは震える。


恐怖ではない。


理解してしまった。


この男は。


人を超えたのではない。


“終わり”を受け入れられなかっただけだ。


セイジが低く言う。


「人は……」


「終わるから人なんだ」


その瞬間。


ハザムが止まる。


昔。


自分もそう思っていた気がする。


命には終わりがあるから、美しいのだと。


だが。


失いすぎた。


遠くまで来すぎた。


戻れなかった。


ハザムは静かに目を閉じる。


そして。


小さく呟いた。


「……もう遅い」


その声には。


諦めが滲んでいた。


セイジはその顔を見る。


そして、理解する。


この男は神じゃない。


救済者でもない。


「……魔王だ」


ハザムは少しだけ笑った。


「そう呼ぶ者もいた」


雨の中。


白と黒の騎士を従えたその姿は。


まるで。


神話の終わりそのものだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。

この作品は、戦いや能力だけではなく、

「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」

を描いていけたらと思っています。

よければ感想などいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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