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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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18/80

Episode 3-3 「知の勇者」

ここまで読んでいただきありがとうございました。

少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。

この作品は、戦いや能力だけではなく、

「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」

を描いていけたらと思っています。

よければ感想などいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。


中央学術院地下区画。


古い資料庫を改装したその部屋には、数十人の学生たちが集まっていた。


皆、若い。


だが、その目には不安がある。


恐怖も。


誰も大声では話さない。


灰神圏で“思想”を語ることは、罪ではない。


だが。


危険視はされる。


そして今、彼らの中心に立つ男がいた。


セイジ。


黒髪。


細い身体。


疲れた目。


以前より痩せていた。


だが、その声だけは強かった。


「……俺は、この国を否定したいわけじゃない」


学生たちが静かに聞いている。


「灰神圏は豊かだ」


「飢えも減った」


「教育も広まった」


「昔より、遥かに良い世界だ」


それは本心だった。


セイジはハザムを理解している。


この巨大国家が、どれほど多くの命を救ったのかも。


分かっている。


だが。


「でも」


セイジの目が細くなる。


「人は、考えなくなった」


静まり返る地下室。


セイジは続ける。


「剣闘士を見て熱狂する」


「歌姫を見て金を投げる」


「それ自体は悪くない」


「だが」


「皆、“与えられた夢”しか見ていない」


学生たちの顔が揺れる。


誰も反論できない。


なぜなら。


彼らも感じていたからだ。


最近の灰神圏は、少し息苦しい。


平和すぎる。


完成されすぎている。


まるで。


“神の箱庭”みたいに。


その時。


一人の学生が小さく言った。


「でも……仕方なくないですか」


セイジが視線を向ける。


「外よりマシだし」


「食べられるし」


「戦争も少ない」


「皆、それで満足してるなら……」


その言葉に。


セイジは一瞬、黙った。


昔なら。


穏やく説得しただろう。


だが今は違う。


「満足?」


セイジの声が低くなる。


「それは、“考えること”を放棄してるだけだ」


空気が冷える。


学生が怯む。


セイジは気づかない。


いや。


止まれない。


「人は、本来もっと自由だ」


「もっと選べる」


「なのに今の灰神圏はどうだ?」


「強いオーガは剣闘士」


「美しいエルフは歌姫」


「ピクシーは夜の街」


「価値ある才能だけが愛される」


「それ以外は?」


沈黙。


セイジは拳を握る。


「人が、“商品”になってる」


その瞬間だった。


地下室の扉が開く。


全員が振り返る。


ナギだった。


黒い外套。


感情の薄い顔。


学生たちがざわつく。


だがナギは静かにセイジを見る。


「……続けろ」


セイジは目を細める。


「捕まえに来たんじゃないのか」


「違う」


ナギは壁にもたれた。


「聞きに来た」


沈黙。


やがてセイジが口を開く。


「……あんた、灰神皇の側近だろ」


「そうだ」


「だったら分かるだろ」


セイジの目が鋭くなる。


「この国は、少しずつ人を壊してる」


ナギは答えない。


代わりに。


静かに地下室を見回す。


若者たち。


熱。


不安。


怒り。


昔、どこかで見た光景だった。


セイジが続ける。


「人は、もっと考えるべきなんだ」


「神に与えられた平和じゃなく」


「自分で選ぶべきなんだよ」


ナギは小さく目を閉じる。


そして。


ぽつりと言った。


「……昔」


「同じこと言ってた奴を知ってる」


セイジが眉をひそめる。


「誰だ」


ナギは少しだけ沈黙した。


それから静かに答える。


「ハザムだ」


地下室が静まり返る。


セイジの目が揺れる。


ナギは続ける。


「最初の頃の、あいつは」


「まだ人を諦めてなかった」


その言葉が。


妙に重かった。


セイジはゆっくり拳を握る。


「だったら」


「なおさら止めなきゃいけない」


その時だった。


奥の学生が、小さく震えながら言う。


「……でも」


「どうやって?」


神を相手に。


世界を支配する王を相手に。


どう戦う。


セイジは静かに全員を見る。


そして。


はっきりと言った。


「思想で戦う」


誰も声を出せない。


だが。


その目だけは、少しずつ変わり始めていた。


恐怖から。


熱へ。


その瞬間。


灰神圏に、新しい“勇者”が生まれた。

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。

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