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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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17/80

Episode 3-2 「俗な神」

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。


深夜だった。


王城最上階。


灰神皇執務室。


大量の書類が山積みになっている。


教育法改正案。


地方学校予算。


剣闘士管理法。


夜業区画税率調整。


灰神圏ほど巨大な国家になると、世界を回すだけで膨大な書類が必要だった。


そして。


その半分以上を処理しているのが――。


「……何なの? あの男」


机へ書類を叩きつけながら、シエルが苛立った声を出す。


「本当に腹立つんですけど」


ハザムは窓際で酒を飲みながら静かに聞いていた。


「“消費される自由”って何ですかあれ」


「言い方がいちいち嫌味なんですよ!」


「理屈は分かるんです!」


「でも毎回神経逆撫でしてくるんです!」


珍しく感情的だった。


普段のシエルなら、こんな風に声を荒げない。


ハザムは少しだけ目を細める。


「お前、感情で喋るんだな」


シエルが睨む。


「誰のせいですか」


「?」


「この国の問題、全部こっちに来るんですよ!」


書類をばんばん叩く。


「剣闘士側は“誇りだ”って言うし!」


「芸能区画は“夢を与えてる”って言うし!」


「でも地方では種族差別が悪化してる!」


「全部正しいから余計面倒なんです!」


ハザムは少し黙る。


それから、小さく笑った。


シエルが止まる。


「……今、笑いました?」


「いや」


「笑いましたよね?」


「気のせいだ」


シエルは怪訝そうに目を細める。


最近。


ハザムは時々こんな顔をする。


ほんの少しだけ。


昔を思い出しているような顔。


だが、それもすぐ消える。


シエルはため息を吐き、再び書類へ視線を戻した。


その時だった。


ハザムが後ろから近づく。


静かに。


気配もなく。


シエルが気づいた時には、すぐ後ろに立っていた。


「……近いです」


「そうか?」


「そうです」


ハザムはシエルの肩越しに書類を見る。


髪が少し触れる。


シエルが露骨に嫌そうな顔をした。


「やめてください」


「何をだ」


「今の空気です」


「空気?」


「長生きすると距離感壊れるんですか?」


ハザムは少し考える。


「……昔は、もう少し優しかった」


シエルが即答する。


「前任者と比較しないでください」


ハザムの動きが止まる。


その反応を見て、シエルは少しだけ目を細めた。


図星だ。


ユリア。


クメル。


きっと昔の女たちは、もっと違う距離でこの男と接していた。


だが。


シエルは違う。


「私は慰め係じゃありません」


シエルは冷静に言った。


「あなた、寂しいだけでしょう」


その瞬間。


執務室が静まる。


ハザムは答えない。


ただ窓の外を見る。


夜の街。


歌声。


笑い声。


欲望。


百年以上管理してきた世界。


なのに。


時々、妙に空虚だった。


「……不思議だな」


ハザムがぽつりと呟く。


「昔より、欲だけは消えない」


シエルは呆れた顔をする。


「最低ですね、灰神皇」


「否定はしない」


その時だった。


執務室の扉が開く。


ナギが入ってくる。


そして。


微妙な空気を察した。


沈黙。


ナギがゆっくりハザムを見る。


シエルを見る。


それから、静かに言った。


「……何してるんだ?」


シエルが即答する。


「老害の介護です」


ナギは少しだけ目を細める。


ハザムは窓の外を見たまま、小さく息を吐いた。


その姿は。


神というより。


少しだけ、疲れた男に見えた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。

この作品は、戦いや能力だけではなく、

「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」

を描いていけたらと思っています。

よければ感想などいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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