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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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16/80

Episode 3-1 「夢を売る国」

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。


灰神圏。


世界最大の国家。


西方は属国化され。


南方は交易圏へ組み込まれ。


百年以上続く平和によって、人々は豊かさを手に入れていた。


巨大な闘技場。


歌劇場。


夜の街。


街路には色鮮やかな広告が並ぶ。


『剣王祭 開催決定』


『妖精姫リリス 新公演』


『白銀歌姫エルミナ 西方巡業』


人々は熱狂していた。


強い者。


美しい者。


才能ある者。


灰神圏では、それらは“価値”になる。


オーガは剣闘士として名を上げ。


エルフは歌姫やモデルとなり。


ピクシーたちは夜の街で莫大な金を稼ぐ。


生まれや血筋ではない。


才能で、一攫千金を掴める国。


それが灰神圏だった。


だが。


当然、歪みも生まれる。


「オーガは戦ってりゃいい」


「エルフは顔だけだろ」


「混血は夜の街向きだ」


そんな言葉が、街には溢れていた。


夢を与える国は。


同時に、人を役割へ押し込める国でもあった。


――中央教育院。


世界最大の学術機関。


白い講堂では、数百人の学生たちが静まり返っていた。


演壇に立つのは、一人の女。


長い黒髪。


知的な目。


女官シエル。


教育制度と法整備を統括する、灰神圏最高行政官だった。


「教育とは、“役割”を押し付けるためのものではありません」


シエルの声が響く。


「選択肢を増やすためのものです」


講堂が静まり返る。


「オーガだから剣闘士」


「エルフだから歌姫」


「ピクシーだから夜の街」


「そんなものは、ただの決めつけです」


その時だった。


後方から、一人の青年が立ち上がる。


黒髪。


細い身体。


鋭い目。


セイジ。


学術院主席。


“第二のシエル”と呼ばれる天才。


だが最近では、危険思想家としても知られ始めていた。


「ですが」


セイジが静かに言う。


「人々は、その“夢”を望んでいます」


学生たちがざわつく。


シエルは静かにセイジを見る。


セイジは続けた。


「貧民街の子供が、歌姫になれる」


「奴隷だったオーガが、剣王になれる」


「灰神圏は、それを実現した」


「違いますか?」


シエルは否定しない。


それも事実だからだ。


セイジの目が細くなる。


「ですが同時に」


「この国は、“価値のある才能”しか愛していない」


講堂の空気が変わる。


危険な発言だった。


「美しい女は売れる」


「強い男は稼げる」


「では、それ以外は?」


学生たちが黙る。


セイジは静かに言った。


「人は自由になったんじゃない」


「“消費される自由”を与えられただけです」


沈黙。


シエルは少しだけ目を伏せた。


その言葉は。


鋭すぎるほど、本質だった。


同じ頃。


王城最上階。


巨大な窓から、夜の街を見下ろす男がいた。


灰神皇ハザム・ヴェル。


百年以上変わらぬ王。


その隣には、ナギが立っている。


街は光に溢れていた。


歌声。


酒。


笑い声。


欲望。


生きる熱。


全部が混ざり合っている。


「……賑やかですね」


ナギが言う。


ハザムは静かに街を見下ろす。


「人は欲を捨てられない」


「だから管理する」


昔と変わらない答え。


ナギは少しだけ目を細める。


「セイジが動いてる」


「知ってる」


「止めないのか?」


ハザムは少しだけ沈黙した。


街では、歓声が上がる。


闘技場だ。


今日も誰かが戦い。


誰かが熱狂している。


「……考え始めたなら」


ハザムはぽつりと呟く。


「それも必要だ」


ナギはその横顔を見る。


昔よりずっと静かだった。


怒りも。


悲しみも。


もう薄い。


まるで。


世界そのものみたいに。


その時。


視界の端に文字が浮かぶ。


> 《観測対象:セイジ》


《思想拡散率 上昇》


《危険度:高》




ハザムは、その表示を見ながら小さく笑った。


「……知か」


その声には。


ほんの少しだけ、懐かしさが混ざっていた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。

この作品は、戦いや能力だけではなく、

「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」

を描いていけたらと思っています。

よければ感想などいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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