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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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15/80

Episode 2-7 「神話の時代」

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。


レオン戦争終結から、五十年。


世界は変わった。


西方諸国は属国となり。


交易路は統一され。


混血種への迫害も、大規模なものは消えた。


戦争は減った。


飢えも減った。


人々は口を揃える。


「平和な時代だ」と。


そして。


その平和を築いた王を、人々は畏れと共に呼ぶ。


――灰神皇ハザム・ヴェル。


その名前を。


もう誰も、“人間”として呼ばない。


王都中央。


巨大な白い霊廟。


今日、そこには数万人の民衆が集まっていた。


鐘が鳴る。


静かに。


何度も。


棺が運ばれていく。


純白の花に囲まれた棺。


中で眠るのは、一人の女。


クメル。


治癒院創設者。


灰神圏医療制度の母。


敵味方関係なく命を救い続けた、“聖女”。


泣いている者も多い。


老人たちは口々に言う。


「クメル様には救われた」


「うちの孫も」


「最後まで優しい人だった」


若い世代にとっては、もう歴史上の人物だった。


だが。


それでも皆、頭を垂れる。


棺の前。


黒い衣を纏った男が立っていた。


灰神皇ハザム・ヴェル。


百年以上、姿の変わらぬ王。


若いままの顔。


静かな瞳。


感情の薄い横顔。


その左右には、二人の騎士が立っている。


漆黒の甲冑。


黒騎士ヴァズ。


純白の甲冑。


白騎士レグオン。


“神の双騎士”。


灰神皇最強の守護者。


人々の憧れ。


だが。


二人は一切喋らない。


微動だにせず。


感情もなく。


ただ、棺の前へ立っている。


それを見ながら、ナギは静かに目を伏せた。


死んでいない。


だが。


生きてもいない。


あれはもう。


“勇者”ではない。


シエルがゆっくり前へ出る。



彼女は民衆へ向け、静かに言葉を紡ぐ。


「クメル様は、生涯を通して命を救い続けました」


「人間も、混血も、敵も味方も関係なく」


「それは、この国が最も誇るべき優しさです」


民衆が静かに頭を下げる。


ハザムは黙って棺を見ていた。


白い花。


閉じられた目。


穏やかな顔。


その姿を見ていると。


胸の奥に、何かが引っかかる。


思い出しかける。


白髪の女。


暖かい午後。


水を渡される感覚。


だが。


名前が出てこない。


その時。


シエルが小さく言った。


「……最近、忘れることが増えましたね」


ハザムは少しだけ目を細める。


「そう見えるか」


「ええ」


シエルは静かに棺を見る。


「でも」


「忘れなければ、あなたは壊れていた」


風が吹く。


白い花びらが舞う。


遠くで子供たちの声が聞こえる。


平和だった。


確かに。


この国は平和なのだ。


その時。


群衆の後方がざわめく。


若い兵士たちが、小声で話していた。


「見たか?」


「白騎士様だ……」


「黒騎士様も」


「本当に喋らないんだな」


彼らにとって。


双騎士は伝説だった。


誰も知らない。


かつて“勇者”と呼ばれたことを。


ナギだけが、静かに目を閉じる。


そして。


小さく呟いた。


「……誰も」


「もう、あんたを人間だと思ってない」


ハザムは空を見る。


灰色の空。


二つの月。


遠すぎる時間。


やがて。


静かに答えた。


「そうか」


その声には。


もう、ほとんど感情が残っていなかった。


視界の端に文字が浮かぶ。


> 《旧個体名:ハザム》


《現管理名称》


《灰神皇ハザム・ヴェル》




その表示を見ながら。


ハザムは、ただ静かに立っていた。


まるで。


世界そのものみたいに。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。

この作品は、戦いや能力だけではなく、

「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」

を描いていけたらと思っています。

よければ感想などいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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