Episode 2-4 「敗残兵」
いつも読んでいただきありがとうございます。
『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。
主人公は決して善人ではありません。
ですが、悪人とも少し違います。
長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。
そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
戦場は、灰色だった。
燃える大地。
折れた旗。
死体。
血の匂い。
ハザム国と西方連合軍、その全面衝突は三日目に入っていた。
空には黒煙。
地上では怒号。
人も魔物も関係なく、命が削られていく。
「前線押されてるぞ!!」
「混血兵を止めろ!!」
「レオン様を前へ!」
叫びが飛び交う中、一人の男だけが静かだった。
レオン。
白銀の鎧は血で汚れている。
それでも彼は立ち続けていた。
剣を振るう。
仲間を守る。
その姿に、兵たちは希望を見る。
「勇者レオン!!」
「押し返せぇぇ!!」
その時だった。
戦場の奥から、重い音が響く。
――ズシン。
――ズシン。
兵士たちの顔色が変わる。
煙の向こうから現れたのは、巨大な影だった。
二メートルを超える身体。
鋼を埋め込まれた肉体。
そして。
右腕を丸ごと覆う、巨大な戦斧。
「……鋼鬼」
誰かが震えた声で呟く。
鋼鬼グラド。
十年間、剣闘士として戦い続けた怪物。
ハザム国最強の戦奴。
観客の歓声の中で、人を殺し続けた男。
だが。
その目は、どこか疲れていた。
グラドは戦場を見渡す。
死体。
悲鳴。
炎。
そして。
レオンを見つけた。
「……久しぶりだな」
レオンの顔が険しくなる。
「グラド」
十年前。
殺さなかった男。
その男が今、戦場の化け物として立っている。
グラドはゆっくり戦斧を持ち上げる。
「安心しろ」
「今日は観客はいねぇ」
その瞬間。
地面が砕けた。
グラドが突っ込む。
速い。
巨体とは思えない速度。
レオンが剣で受ける。
衝撃。
腕が痺れる。
「っ……!」
グラドの斧が地面を砕く。
兵士たちが吹き飛ぶ。
完全に、人間の域を超えていた。
レオンは息を整える。
「まだこんな戦い続けてるのか」
グラドが笑う。
「他に生き方知らねぇんだよ」
再び激突。
火花。
轟音。
だが。
レオンは気づいていた。
グラドの動きが荒い。
捨てている。
防御を。
命を。
「お前……」
レオンが目を細める。
「最初から死ぬ気か」
グラドは答えない。
ただ笑う。
「……疲れたんだよ」
その声は、あまりにも静かだった。
「勝っても」
「殺しても」
「歓声浴びても」
「何も残らねぇ」
戦斧が振り下ろされる。
レオンが避ける。
グラドの身体が大きく揺れる。
限界だった。
十年間。
戦い続けた肉体。
継ぎ接ぎだらけの命。
レオンは剣を構える。
「降伏しろ」
グラドは笑った。
「今さら無理だ」
次の瞬間。
グラドが最後の突撃をする。
レオンも踏み込む。
交差。
静寂。
グラドの身体が止まる。
胸から血が溢れる。
戦斧が地面へ落ちた。
レオンは荒く息を吐く。
グラドはゆっくり崩れ落ちる。
「……終わりか」
レオンは剣を下ろせなかった。
グラドが笑う。
昔よりずっと穏やかな顔だった。
「悪くなかったぜ」
「殺さなかった男に」
「殺されるならな」
レオンの目が揺れる。
グラドは空を見る。
黒煙。
灰。
それでも。
どこか解放された顔だった。
やがて。
静かに動かなくなる。
周囲が静まり返る。
その時だった。
遠くで角笛が鳴る。
黒い軍勢。
統率された混血兵たち。
その先頭に、一人の男がいた。
黒い外套。
黒く変色した片腕。
感情の薄い瞳。
黒騎士カズハ。
兵士たちが恐怖にざわめく。
「黒騎士……!」
「ハザムの側近だ……!」
カズハは、倒れたグラドを見る。
そして。
静かにレオンへ視線を向けた。
その瞬間。
レオンの背筋に、妙な感覚が走る。
どこかで見たような。
懐かしいような。
嫌な感じ。
カズハが口を開く。
「……その目」
ほんの少しだけ笑う。
「昔の俺みたいだ」
レオンの顔が険しくなる。
「何者だ、お前」
カズハは剣を抜く。
黒い刃。
まるで夜そのものみたいな剣。
「ただの敗残兵だよ」
次の瞬間。
二人の勇者が、激突した。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。
この作品は、戦いや能力だけではなく、
「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」
を描いていけたらと思っています。
よければ感想などいただけると励みになります。
次回もよろしくお願いします。




