Episode 2-3 「悪を求める国」
いつも読んでいただきありがとうございます。
『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。
主人公は決して善人ではありません。
ですが、悪人とも少し違います。
長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。
そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
レオンと出会ってから、十年が過ぎていた。
戦争は、ゆっくり始まった。
最初は小さな噂だった。
辺境の村が、魔物に襲われた。
生き残った者は言った。
「混血だった」
「黒い角があった」
「ハザム国の兵だ」
だが。
証拠はなかった。
本当にハザム国だったのか。
ただの野良魔物だったのか。
誰にも分からない。
それでも。
噂は広がった。
人々は恐怖した。
そして。
恐怖は、やがて形を求め始める。
“悪者”を。
――西方連合軍 前線陣地。
冷たい風が吹いていた。
数万の兵士。
並ぶ旗。
燃える篝火。
その中央で、一人の男が地図を見つめている。
レオン。
十年前より少し痩せた。
だが、その目の強さは変わらない。
「……進軍は明朝か」
部下が頷く。
「各国の士気は高いです」
「“神を倒せ”と」
レオンは黙る。
周囲では兵士たちが酒を飲み、熱狂していた。
「混血どもを潰せ!」
「ハザムを殺せ!」
「勇者レオン万歳!」
その声を聞きながら、レオンは目を閉じる。
本当に。
そこまで単純な話なのか。
分からなかった。
確かにハザム国は巨大化しすぎた。
剣闘士。
夜の街。
命を管理する制度。
危うさはある。
だが同時に。
あの国で救われた者もいる。
それを、レオンは知っていた。
「……レオン様」
若い兵士が不安そうに聞く。
「本当に、ハザムは世界を支配するつもりなんでしょうか」
レオンは少しだけ考えた。
そして静かに言う。
「分からない」
兵士が驚く。
だがレオンは続けた。
「でも」
「恐怖は放置すれば、もっと大きな戦になる」
その言葉は、誰に向けたものだったのか。
レオン自身にも分からなかった。
その頃。
戦場から離れた村。
ナギは、焼け跡を見ていた。
崩れた家。
泣く子供。
死体。
村人たちは口々に叫ぶ。
「ハザム国のせいだ!」
「混血どもが!」
だが。
ナギは気づいていた。
傷跡が違う。
これは軍ではない。
ただの暴走魔物。
もしくは。
誰かが“そう見せた”。
だが、もう関係なかった。
人々は真実を求めていない。
欲しいのは。
怒る理由。
憎む相手。
「……誰も」
ナギが小さく呟く。
「本当の理由なんて見てない」
風が吹く。
遠くでは、戦争の準備が進んでいる。
その時だった。
「ナギ」
声。
振り返る。
レオンだった。
鎧姿。
十年ぶりだった。
二人は少しだけ黙る。
レオンが先に笑う。
「変わらないな、お前」
「そっちこそ」
だが。
レオンの目には、十年前にはなかった疲れがある。
レオンは焼け跡を見る。
「……これもハザムの国じゃないんだろ?」
ナギは答えない。
それが答えだった。
レオンは苦く笑う。
「だよな」
しばらく沈黙。
やがてレオンが言う。
「でも、もう止まらない」
「人は恐怖すると、敵が欲しくなる」
ナギは静かに聞いていた。
レオンは続ける。
「なら俺は、せめて終わらせる側になる」
その言葉に。
ナギは少しだけハザムを思い出した。
似ている。
考え方が。
昔よりずっと。
「……お前」
ナギがぽつりと呟く。
「少し、ハザムに似てきた」
レオンが眉をひそめる。
「冗談でもやめろ」
だがナギは真顔だった。
同じ頃。
王城最上階。
ハザムは、静かに戦場を見下ろしていた。
数万の兵。
旗。
怒号。
恐怖。
憎悪。
人々は熱狂している。
まるで祭りだった。
クメルが不安そうに言う。
「……本当に戦うんですか」
ハザムは答えない。
ただ。
ゆっくりと目を細める。
その視界の端に、文字が浮かぶ。
> 《観測対象:レオン》
《思想変質を確認》
ハザムは、小さく笑った。
「……人は」
「昔から変わらないな」
その笑みを見て。
クメルは初めて。
少しだけ、恐ろしくなった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。
この作品は、戦いや能力だけではなく、
「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」
を描いていけたらと思っています。
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次回もよろしくお願いします。




