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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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10/80

Episode 2-2 「殺さない男」

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。


闘技場の歓声は、地鳴りみたいだった。


巨大な円形闘技場。


石造りの観客席は、人で埋まっている。


人間。

獣人。

混血。

商人。

貴族。


誰もが、血を求めていた。


中央では、一人の男が膝をついている。


鋼鬼グラド。


五連勝中の人気剣闘士。


二メートル近い巨体。


鋼を埋め込んだ両腕。


混血剣闘士の象徴。


そのグラドが、息を切らしていた。


対するのは、若い男。


白銀の鎧。


長剣。


汗に濡れた金髪。


そして、まっすぐすぎる目。


「立てるか?」


男が手を差し出す。


闘技場が、一瞬静まり返った。


次の瞬間。


大ブーイング。


「殺せぇぇ!!」


「首を取れ!!」


「終わらせろ!!」


レオンは振り返らない。


ただグラドを見ていた。


グラドは荒く息を吐きながら、その手を見る。


「……なんのつもりだ」


「勝負はついた」


「だから?」


「だから、終わりだ」


グラドが目を細める。


周囲では観客が怒号を飛ばしている。


物足りない。


もっと血を。


もっと死を。


彼らはそれを求めていた。


グラドは低く笑った。


「お前、この国向いてねぇぞ」


レオンも少し笑う。


「よく言われる」


そして。


グラドは、その手を取った。


歓声ではなく、困惑が闘技場を包む。


観客席の上。


黒い外套の男が、その光景を見下ろしていた。


名はナギ。


細い目。


感情の読めない顔。


隣にいた役人が舌打ちする。


「まただよ、あいつ」


「人気取りか?」


「殺さねぇ剣闘士なんざ、何が面白い」


ナギは答えない。


ただ、レオンを見ていた。


不思議な男だった。


強い。


なのに。


“奪う側”の目をしていない。


試合後。


闘技場裏の通路。


レオンは井戸水で血を洗っていた。


そこへ、ナギが現れる。


「……何だ?」


レオンが振り返る。


ナギは少し黙ってから言った。


「なぜ殺さなかった」


「殺す必要なかったから」


即答だった。


ナギは少し目を細める。


「観客は望んでた」


「だから?」


「ここでは、望まれることに価値がある」


レオンは苦笑する。


「変な国だな」


「そうか?」


「人が死ぬの見て喜んでる」


レオンは水を飲む。


「お前は平気なのか?」


ナギは少し考える。


闘技場の歓声。


剣闘士。


夜の街。


酒。


熱狂。


この国では、それらが“管理”されている。


争いを減らすために。


欲を暴走させないために。


理屈は理解していた。


だが。


理解と納得は違う。


「……分からない」


ナギは正直に答えた。


レオンは少し驚いた顔をする。


もっと冷たい答えが返ってくると思っていた。


「お前、この国の人間だろ?」


「ここで生まれた」


「なら、あいつを信じてるのか?」


“あいつ”。


つまりハザム。


ナギは少しだけ空を見る。


二つの月。


遠くで歓声が響いている。


「……ハザムは、多くを救った」


「でも?」


ナギはレオンを見る。


「人は、救われるだけで満足するのか?」


レオンは黙る。


その問いは、少しだけ鋭かった。


ナギは続ける。


「外の国は飢えてる」


「戦争も多い」


「ここでは、少なくとも生きられる」


レオンは静かに答えた。


「生きてるだけだ」


ナギの目が少し揺れる。


レオンは真っ直ぐ言った。


「人は、飼われるために生きるんじゃない」


その言葉を。


ナギは否定できなかった。


しばらく沈黙。


やがてレオンが笑う。


「……変な奴だな、お前」


「よく言われる」


「名前は?」


「ナギ」


「俺はレオン」


レオンが手を差し出す。


ナギは少し迷ってから、その手を握った。


温かかった。


その感触が、妙に記憶に残った。


同じ頃。


王城の最上階。


ハザムは静かに都市を見下ろしていた。


その視界の端に、文字が浮かぶ。


> 《観測対象:レオン》


《適性値:高》




ハザムは小さく目を細める。


「……そうか」


その声は。


ほんの少しだけ、楽しそうだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。

この作品は、戦いや能力だけではなく、

「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」

を描いていけたらと思っています。

よければ感想などいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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