8-6 ネコ戦士、落ち込む
もしも私の言葉がフリーザードラゴンにも通じるなら、フリーザードラゴンは倒さなくてもいいかもしれない。
ギルド長の言葉は、私の心を少しだけ明るくした。
でも、私はまだ、アクアドラゴンを倒したことを引きずっていた。
アクアドラゴンの最期のひと声が…
「ウオォ…ン…」
という声が
「どうして…」
と言っていたように思えたからだ。
「ゴメンにゃ」
という私の言葉がアクアドラゴンに伝わってたなら、その直後に斬られて倒されてしまったら…そりゃ
「どうして…」
って言いたくなって当然だろう…
そう思ったら、あの時のアクアドラゴンの深い青色の大きな瞳が、脳裏に焼き付いて離れなかった。
ずっと沈み込んでいた私に、ギルド長が声をかけてきた。
「…ネコ戦士殿、ベリー村まで送ろう」
ギルド長の言葉に、私は黙ってうなずいて立ち上がった。
そして防壁の階段を上って降りて、防壁から少し離れた所につないであったギルド長の馬の所まで歩いて行った。
「…馬さんは大丈夫にゃ?海の水、こっちにも来たにゃろ?」
私が声をかけると、馬はぶるるっと鼻を鳴らした。
大丈夫って言ってるのかな?
「ベリー村までよろしくにゃ」
また私が声をかけると、馬はひひんといなないた。
馬って頭いいなぁ…と思いながら、私は馬に乗せてもらい、ギルド長と一緒にベリー村に向かった。
「おかえりモモちゃん!」
「ケガはないかい?!」
ベリー村に戻ると、いつも通り村のみんなが出迎えてくれた。
でも、私はいつものように明るく応じることができなくて
「…にゃあ…」
と小さく返事をして、馬から飛び降りた。
するとカールさんが
「…なんかあったのか…?!」
と、なぜかギルド長に詰め寄った。
ギルド長は
「話すと長くなる…こちらへ」
と、カールさんたちを連れて、私から離れて行った。
私はとりあえず、鍛冶屋のケンさんにアクアドラゴンの皮を渡さなきゃと思ったので、ケンさんの工房に向かった。
「おう、アクアドラゴンはどうなった?」
というケンさんの声に、私は
「倒したにゃ」
と返して、アクアドラゴンの皮を差し出した。
ケンさんは眉間にしわを寄せて
「…なんかあったんだな?」
と聞いてきたけど、私は答えられなかった。
するとケンさんは
「…事情はわからんが、とにかくこれは預かるぜ。装備の改造にモモちゃんの手が必要ならまた頼むから、それまで家で休んでな」
と言ってくれた。
鈍いと思ってたケンさんだけど、それは人からの恋心だけで、もしかしたら人の心の痛みには敏感なのかもしれない…と私は思った。
「…ありがとにゃ。休んでくるにゃ」
私はケンさんにそう言って、家に戻った。
そして装備を脱いだ後、毛づくろいも適当に、私はベッドで丸くなった。
アクアドラゴンのきれいな深い青色の瞳の夢を見ながら。
私はしばらく眠っていたらしく、目覚めるともう日は暮れていた。
しゃんとしないと…と、ちゃんと毛づくろいをし直してから、私はまた装備を身に着けた。
そして家を出ると、村のみんなが家の前にいて
「モモちゃんっ…!!」
と言って、バーサさんが私を抱きしめた。
私の背は低いから、小さな子供を抱きしめるように。
「辛かったね、辛かったね…!!」
そう言いながら、バーサさんは泣いていた。
三人娘も、リーナさんも泣いている。
村長やカールさん、ジンさん、エドさん…男の人たちは泣いてなかったけど、泣きそうな顔をしていた。
バーサさんは
「言葉が通じるってわかってりゃ、モモイロヒヒの親子みたいに、仲良くなれたかもしれないのにっ…!倒した後で気づいたなんて…辛かったね…!!」
と、私を抱きしめたまま泣き続けた。
そうだ。
モモイロヒヒのメスとはちゃんと話せて、そのおかげでオスは追い払えたんだ。
もし、もっと早く…アクアドラゴンにも言葉が通じるって気づいてたら…
そこまで考えて、私はまた
「うにゃあああああああっ…!!」
と声を上げて泣いた。
私の涙が治まり始めた頃、カールさんが優しい声で私に言った。
「…フリーザードラゴンとは、ちゃんと話すんだろ?」
私はバーサさんの腕の中から顔を上げて
「にゃ…話すにゃ…」
とカールさんに答えた。
バーサさんも
「そうだね、今度はちゃんと話ができて、倒さずにすめばいいね」
と、微笑みながら言ってくれた。
ベリー村のみんなにとって、モンスターは倒すべき脅威だろう。
でも今は、私の気持ちを分かってくれて、倒さなくてもいいって言ってくれてる。
みんなの優しさが、私の心の傷をいやしてくれるのを感じて、私は右前脚で涙をふいた。
きっと…きっと、フリーザードラゴンとは話せるはずだ。
話したい、ちゃんと話して…戦わなくて済みますように…と、私は心から願った。
キーボードで入力してると、結構ネコの毛がキーボードの隙間に入っているのに気付きます。ネコとの暮らしって、こんなもんですw




