8-5 ネコ戦士、アクアドラゴンを海に送り出す
「ネコ戦士殿、なぜ泣いているのですか?」
前にアクアドラゴンと戦った時、勝手な行動をして私にかばわれたティトさんが、私に尋ねてきた。
私は
「…私だって、好きで命を奪ってるわけじゃないにゃ」
と、小さな声で答えた。
ティトさんは
「えっ…?」
と驚いた。
私はさらに
「好きで誰かの命を奪いたいわけじゃないにゃ!!ヒトに、国に害があるかもっていうから、戦ってるだけにゃ!!」
と声を大きくしてティトさんに言った。
するとティトさんは
「…あっ…す…すみません…」
と小さな声で謝った。
「…ごめんにゃ…アクアドラゴン倒さなきゃ、ヒトの誰かが死んじゃうかもしれないから仕方ないって、私もわかってるにゃよ…」
言い過ぎたと思って、私もティトさんに謝ると
「…いえ、その通りです…国や人に害なす存在でなければ、殺す必要はないですよね…」
とティトさんが言った。
きっとホントはみんな、わかってるんだろう。
なにかの…誰かの命を奪うのは、怖くて辛くて悲しいことだって。
私はアクアドラゴンの皮を少しだけ剥いで、手を止めた。
全部を解体するのはしのびなかったからだ。
皮はきっとまた、装備に使えるだろう。
肉は食べられるかもしれないけど、見た所、骨は魚みたいに細そうだから、きっと使えない。
「ネコ戦士殿、どうする?」
ギルド長がそう聞いてきたので、
「皮だけ少しもらって、あとは海に流すにゃ」
と私は答えた。
「…海に流す…とは?」
ギルド長は首をかしげた。
「アクアドラゴンはきっと、今まで自由に海を泳いできたのにゃ。だったら海に流して、水葬にしてあげたいにゃ」
私の言葉に、ギルド長は少し考えてから、うなずいた。
私はベリーの実を食べて、アクアドラゴンの体を海に向かって押すことにしたけど、矢が一杯刺さったままじゃかわいそうな気がしたので、少しずつ切れ目を入れて、矢は全部抜いた。
皮も、私の装備に必要そうな少ししか剥がしてないので、アクアドラゴンはほぼ生前に近い姿だった。
私はひとりで、アクアドラゴンの体を少しずつ海に向かって押し始めた。
するとギルド長も…傭兵たちも一緒に、アクアドラゴンの体を押し始めた。
ヒトの力じゃほぼ何の役にも立たない。
でも、みんな一生懸命、私と一緒にアクアドラゴンの体を押してくれた。
アクアドラゴンの体が半分以上波に浸かりだすと、アクアドラゴンは離岸流で海に滑り出した。
沈むかと思っていたアクアドラゴンは意外にも海面に浮いて、少しずつ浜辺から離れて行った。
離れていくアクアドラゴンに向かって私が両前脚を合わせて拝んでいると、ギルド長たちも両手を合わせて拝んだ。
そうしてアクアドラゴンの体は少しずつ遠ざかり、やがて水平線にその姿を消した。
私はしばらく、呆然と海を見ていた。
アクアドラゴンがもし、北の海辺に上陸してたら、バツ村にも何らかの被害があったかもしれない。
だから、アクアドラゴンを倒して良かったはずだ。
そう思うしかなかった。
私はふと、アクアドラゴンの深い青い瞳を思い出した。
「ゴメンにゃ…」
という私の言葉を聞いて、目を見開いたアクアドラゴン。
もしもアクアドラゴンにも、私の言葉が通じてたんだとしたら…?
倒さなくても良かったんじゃないのか?
来たの海辺には上陸しないでって、そう言えば良かったんじゃないのか?!
そう思ったら、私は吐き気がしてきた。
自分の犯した罪の重さと大きさに。
私は砂浜に前脚をついて、げほげほと咳き込んだ。
「ネコ戦士殿?!いかが致した?!」
ギルド長が慌てて声をかけてきた。
私は返事もできず
「うにゃあああああああっ!!!」
と声を上げて、泣いた。
目が覚めると、いつの間にか太陽は南中より西に傾きかけていた。
私は泣き続けて、泣き疲れて、砂浜で眠ってしまったようだった。
「…目覚めたか…?」
と声をかけてきたギルド長は、私の隣に腰を下ろして座っていた。
続けてギルド長が
「傭兵たちは王都に戻らせた。防壁から落ちた者たちも、軽傷で済んでいた」
と言ったので、私はちょっとほっとした。
そして私はギルド長に
「…アクアドラゴン、私の言葉がわかったかもしれないのにゃ…」
と、さっき考えていたことを伝えた。
ギルド長は目を見開いて
「それは、まことか?!」
と尋ねてきた。
「倒さなくても良かったかもしれないにゃ…」
またあふれてきた涙を前脚でぬぐいながら私がそう言うと、
「ならば、フリーザードラゴンとは戦わずとも良いかもしれぬではないか…!!」
とギルド長が言った。
ギルド長の言葉に、私は、ひと筋の光が見えたような気がした。
今日はネコがおやつのかつお節をあまり食べません。新しいフードはもりもり食べるのに…もしかして、新しいフードがおいしすぎて、かつお節いらなくなったのか…?




