25-1 ネコ戦士、雷竜に命のはかなさを伝える
「いやあ、本当に命拾いをしたよ…」
ケラーさんがふーっとため息をついたので、
「ケラーさんは今、ホントは死ぬはずじゃなかったのにゃ。でもサンちゃんがいなかったら、死んでた可能性があったのにゃ」
私もため息をついた。
「死ぬはずではなかった…とは?」
ケラーさんが首をかしげると、みんなも
「どういうことだい?」
「心臓は止まってたんだろ?」
と不思議そうに私に言った。
ネコには、ヒトの死の匂いが感じ取れる…それは、誰にも言いたくなかった。
それを言ってしまうと、先々みんなが不安になるかもしれないから。
ちょっとした体の不調で、私に”死の匂いがするかどうか”を確認したくなるかもしれないから…
でも、こうなったら言わなきゃいけないだろう。
「私には…ネコには、ヒトの死の匂いがわかるのにゃ…前の村長さんの時が、そうだったのにゃ…」
私が小さな声で言うと、ケラーさんもみんなも息を呑んだ。
そしてカールさんが口を開いた。
「…そうだったのか…じいさんが死ぬとき、サンちゃんがいたら助かったのかって思ったけど…あの時サンちゃんがいても、じいさんは助からなかったってことなんだな…」
カールさんの言葉に、私はうなずいた。
そしてサンちゃんの方を向いて、
「だからサンちゃん、誰かが死にそうになってても、サンちゃんひとりの時は、今みたいに雷出したらダメにゃ」
とサンちゃんにクギを刺した。
サンちゃんがきょとんとした顔で
「サンちゃん、みんなたすけるよ?みんなしんだら、たすけたいよ!」
と言ったので、ああ、思った通りだ…と私はため息をついた。
「サンちゃんにもヒトの死の匂いが分かるなら、今と同じことをしてあげたらいいにゃ。でも、サンちゃんにはヒトの死の匂いは分からないと思うにゃ。ママがお願いって言った時だけ、今みたいにヒトを助けてあげてほしいにゃ」
私はそう言ったけど、サンちゃんは食い下がった。
「どうして?ヒトが、ともだちがしんだら、サンちゃんかなしい。たすけたいよ!」
サンちゃんは優しくて、賢い。
でもやっぱり、まだ子供なんだ。
「ママがいない時にヒトの誰かが倒れてて、助けるつもりでサンちゃんが雷を出しても、そのヒトが助からなかったら…サンちゃんがそのヒトを死なせたって思われるかもしれないにゃよ」
私の言葉に、サンちゃんは目を見開いた。
「どうして?どうして?」
「ママがいたら、そのヒトがサンちゃんの雷で助かるのかどうかが分かるけど、ママがいない時…そのヒトはもう助からないのに、助けるつもりでサンちゃんが雷出して、そのヒトがそのまま死んだら、そのヒトの周りのヒトたちは、サンちゃんのせいで死んだって誤解して…サンちゃんを恨むかもしれないにゃ」
サンちゃんの目をじっと見つめて私がそう言うと、サンちゃんは言葉もなく、固まった。
「サンちゃんのせいでしんだって、おもわれるの…?サンちゃん、たすけたいのに…」
サンちゃんは金色の目から涙をこぼした。
私は、サンちゃんを抱きしめた。
すっかり大きくなったけど、まだかろうじて私にも抱きしめられる大きさのサンちゃんに、私は言った。
「サンちゃんにも、ヒトの死の匂いが分かったら、今みたいに…ヒトを助けてあげられるんだけどにゃあ…」
サンちゃんは涙声で
「サンちゃん、わからない…ヒトのそんなにおい、わからない…そしたら…ままがいなくなったら、サンちゃん、もうヒトをたすけられないの…?」
と言った。
そんなサンちゃんに、さらに私は言った。
「今、ケラーさんを…おじいさんを助けられたのは、たまたまケラーさんがここにいる時に倒れたからにゃ。もし、サンちゃんもママもいない所で倒れてたら、ケラーさんはどうなってたか分からないにゃよ」
するとケラーさんが、ひゅっと息を呑んだ。
「…ふたりがいなければ、私は死んでいたかもしれぬ…ということか…」
「まあ王都なら、お医者さんが心臓押したりして助けてくれたと思うけどにゃあ」
と私が言うと、
「な、なるほど…つまり私は、誰かの助けがあれば死ななかった可能性が高い…ということなのだな」
ケラーさんは、ほーっと息を吐いた。
「つまりにゃ、私がサンちゃんに言いたいのは、ヒトの命は思うようにならないってことなのにゃ」
私がそう言うと、カールさんが
「…そうだな…じいさんはもう、寿命だったってことなんだよな…」
と目を伏せて言った。
そしたらサンちゃんが
「…ぱぱのおじいちゃん、いきられるだけ、いっぱいいきたの…?」
そう言った。
「いい表現にゃ。ヒトや私や…クロたちやノア…竜族以外のみんなは生きられるだけ一杯生きても、その命は短いのにゃ。生きられるだけ生きてなくても、病気やけがで死んじゃうこともあるにゃ」
サンちゃんは、私の言葉を黙って聞いていた。
「サンちゃんたち竜族は、私たち、はかない…短い命の者たちを見送ることになるのにゃ…それはサンちゃんには辛くって悲しいことにゃ。でも、私たちはサンちゃんと出会えて、一緒に暮らせて、とっても幸せなのにゃ。それだけは、わかっててほしいにゃ」
私に抱きしめられたまま、サンちゃんはうなずいた。
「サンちゃんも、しあわせだよ」
私はサンちゃんを抱きしめる両前脚に、少しだけ力を入れた。
第25章開始です~。今日は昨日よりずっと暑くなりましたが、エアコンを効かせた部屋にいるからか、ネコが久しぶりにしっぽの先をちゅうちゅう吸いかけました。おばあさんになっても、仔ネコの頃と同じことをするのも、ネコのかわいいところだなと思います。




