13-5 ネコ戦士、神に祈る
翌朝早くに支度をして私が家を出ると、ギルド長とケラーさんはもう、王都への出発準備を終えていた。
そしてケラーさんは
「国王陛下には先に伝書鳩にてお知らせ申し上げている。我々も王都に戻り、直接陛下に詳細を申し上げる」
と言った。
「…国王陛下へのお知らせとは…?」
村長がそう尋ねると、
「デッガー火山の活動が活発になっているかもしれぬとのご報告である」
ケラーさんは、そう言ってしまった。
ケラーさんの言葉に、村のみんなは
「えっ…どういうことだい…?」
「デッガー火山が噴火するかも…ってことかい…?」
とざわめき始めた。
「ケラーさん…なんでそういうこと言っちゃうのにゃ…」
私がにらみつけると、ケラーさんはよろめいた。
「し、しかし!!問題を先送りしても何の解決にもならん!!真実を知ることは、この村にとっても大切なことである!!」
ケラーさんが必死に言うので、私はため息をついた。
「…この村を…捨てよ…ということなのですか…?」
やっと絞り出した声で村長がケラーさんに尋ねると、
「…それしか、この村を救う手だてはないかもしれん…」
ケラーさんは目を伏せてそう答えた。
するとバーサさんが
「…そんなら、早い方がいいかもしれないね」
と言った。
そして
「死んじまったら何もかも終わりだよ。命あっての物種ってもんだよ」
と続けたけど、バーサさんの笑顔はひきつっていた。
ギルド長とケラーさんが出発した後、村のみんなは話し合い始めた。
「移住しろってことかい…?」
「ったって…いったいどこに行きゃあいいんだよ…」
「行くとしたら滅んだ隣国の跡…か?」
「ひでぇ有様だっていうじゃねぇか…」
大陸の南の温暖な地域にあるから、ベリー村は野菜や果物も良く育って、冬の寒さも厳しくない。
この国の中ではかなり恵まれた条件下で、ずっと暮らしてきたんだ。
それを捨てて今さらどこか遠くに…何もないとこに移住するなんて、無茶な話だ。
それでも、命を守るためには、そうするしかない。
…大切な、大切なみんなのために、何かしたいのに何もできない自分が情けなくて、歯がゆくて。
私は、あふれだしそうな涙をぐっとこらえた。
私が黙ってみんなの話し合いを聞いていると
「モモよ…何とかならんか…?」
村長が私にそう尋ねてきた。
私には何もできないって、わかってるだろうに…
それでも、何かにすがらずにはいられないんだろう。
「じいさん、モモちゃんに頼ろうとするのはやめろよ」
カールさんが口を開いた。
「火山の噴火なんて、ヒトにもネコ戦士にもどうにもできないだろ?モモちゃんはずっと…ずっとひとりで悩んだり苦しんだり、泣いたりしながら俺たちのために頑張ってきてくれたんだ。これ以上モモちゃんを苦しめるなよ…!」
カールさんの言葉に、こらえていた私の涙があふれ出した。
「んにゃああああああっ!!」
私が声を上げて泣くと、みんな黙って…目を見開いて私を見つめた。
そして
「ごめん…ごめんよ…」
「すまなかったな…」
と、みんなも泣き始めて、ベリー村のみんなで声を上げて、泣いた。
「ニャア…」
泣き続ける私の足元に、クロとネネがすりよってきた。
慰めてくれてるんだ…
「クロ、ネネ、ごめんにゃ…泣いてごめんにゃ…」
私はクロとネネを抱き上げて、頬ずりした。
…そうだ。
クロとネネの子供を見るまで、私は頑張るって決めたんだ。
クロを看取るまで生きるって。
私の命ある限り、クロとネネと生きるんだって。
「…祈るにゃ」
私の口からは自然に、その言葉が出てきた。
まだ泣いていたみんなは、私の方を見た。
「フリーザードラゴンに…モンスターの神様に、ヒトの神様に祈るにゃ…!!」
私の言葉に、みんなは目を見開いた後、
「…そうだな…祈るしかねぇよな…」
「祈ってダメなら、移住するしかないわね…」
と諦めたように言った。
でも、私は諦めたわけじゃない。
私は天を仰いで、
「凍竜さん、凍竜さん…知恵を貸してにゃ…!!」
とつぶやいた。
心からの祈りを込めて。
するとあたりが急に寒くなって、春先だというのに雪と氷の粒が舞い散り、
”ネコよ、呼んだか…?”
フリーザードラゴンが、ゆっくりとベリー村の広場に降りてきた。
村のみんなが言葉を失う中、私はフリーザードラゴンに駆け寄った。
「このあたりが危ないのにゃ!!火の山が、噴火するかもしれないにゃ!!」
私の必死の叫びに
”…果実を食らう者どもも危機に瀕しているのだな?”
と、私の考えを先読みして、フリーザードラゴンは言った。
「そうにゃ!もう…もう食べるものもなくなったモモイロヒヒ…果実を食らう者もいるのにゃ!!」
フリーザードラゴンは少し考えた後、
”…我には火の山を止めるすべはない”
と、感情の読めない声で言った。
ああ…神に最も近いフリーザードラゴンにも、どうにもできないのか…
私が落胆してうつむくと、
”そなたは、我らの神とヒトの神の産みし子”
フリーザードラゴンは、そう言った。
”そなたならば、我らの神…そしてヒトの神と語らえるはずだ”
フリーザードラゴンの言葉に、私は顔を上げた。
「私が…あなたたちの神様と…ヒトの神様と…話すにゃ…?」
私の言葉に、フリーザードラゴンはうなずいた。
そして
”そなたならば…いや、そなたにしかできぬことだ…ネコよ、ネコ戦士よ”
フリーザードラゴンはそう言って、その美しい翼を広げた。
「そんにゃっ!!神様たちはどこにいるのにゃ?!」
私の問いに対するフリーザードラゴンの答えは
”神々は、常にそなたのそばにいる”
…だった。
雲の上へと消えていくフリーザードラゴンを見送って、私はただ、立ち尽くした。
神々は…常に私のそばにいる…?
自室のLED照明が寿命を迎えそうなので業者さんに来てもらったら、ベッドの上で寝てたネコがベッドから降りて、業者さんの脚の匂いを嗅いでから、はっとした顔をして一階に逃げて行きました。寝ぼけてたらしいですw




