13-3 ネコ戦士、森の異常を知る
ケラーさんを充分休ませて、翌々日には西門を出てベリー村の西の森林地帯を探索した。
そちらも北門から出て南西の方面とほぼ大差なく、リンゴやナシ?なんかの果物が豊かに実っていて、そのあたりには二組のモモイロヒヒ一家が生活していた。
「残るはベリー村南から、デッガー火山の間だな」
ケラーさんが地図に印をつけながらそう言った。
「ベリー村の畑のモモイロヒヒ母子の縄張りにゃ。そこら辺の木の実がなってないらしいのにゃ」
私がそう言うと、ケラーさんはうなずいた。
「うむ…どのような異常が生じているのか、確かめねばならんな」
ケラーさんはやる気満々なので、また二日ほどケラーさんの体を休めてから、私たちはベリー村の南の探索をすることにした。
「ケラーさんはもう行かない方がいいんじゃないかい?」
バーサさんが心配そうにそう言ったけど、
「いや、大丈夫だ。モンスター研究家である私は、何としても行かねばならない」
ケラーさんは首を横に振った。
確かに、私には地図は読めないし、どこにどんな印をつければいいのかもわからない。
足が痛かろうが腰が痛かろうが、ケラーさんが行くしかないんだ。
「大丈夫にゃ!ケラーさんが動けなくなったら、私がかついで走るにゃ!」
と私が言うと、ケラーさんは慌てて
「いや!もう二度とあのような無様な姿をさらすわけにはいかぬ…!」
と言った。
ホントにガンコだなぁ…と、私は心でため息をついた。
そしていよいよ、私たちはベリー村の南の方の探索に出発することになった。
「気をつけて行くんだよ!」
「ニャー!!」
村のみんなとクロとネネに見送られて、私たちは南門を出た。
そこにはいつものモモイロヒヒ母子がいたけど、もうギルド長もケラーさんも慣れたみたいで
「ほう…これがあの、とても賢いモモイロヒヒか…」
ケラーさんがそう言って、モモイロヒヒの母親を見つめた。
モモイロヒヒの母親が子供をかばう仕草を見せたので、
「大丈夫にゃ。あんたのこと、とっても賢いって言って、見てるだけにゃ」
私がそう伝えたら、モモイロヒヒの母親は戸惑ったようだったけど、うなずいた。
「ちょっと通らせてもらうにゃ。なんで森に果物がないのかを調べに行くにゃ」
と言ったら、モモイロヒヒの母親は少し考えてから、大きくうなずいた。
多分だけど、頼む!って言ってるっぽい。
モモイロヒヒ母子のためにも、森に木の実がない理由を、何としても突き止めなきゃいけない…と私は思った。
しばらく林の中を進んで森林地帯に入って行くと、オスのモモイロヒヒの姿が見えた。
オスのモモイロヒヒは、私の姿を見るとびくっとしたけど、様子がおかしい。
なんだかすごく痩せてる。
ピンク色の毛は抜けて、アバラや背骨が見えるぐらいだ。
「…痩せてるにゃ…」
私のつぶやきに、ケラーさんが
「うむ…これまで各地で見てきたモモイロヒヒのオスと比べ、はるかに痩せておるな…」
と眉間にしわを寄せた。
このままじゃ、このオスは死んじゃうかもしれない。
そしたらあのメスは、もう二度と子供を持てなくなるかもしれない…
「ギルド長さん、荷物からリンゴ出してにゃ」
私がそう言うと、ギルド長はうなずいて、荷物からリンゴを取り出してくれた。
私が食べるためのリンゴを八個、前脚に抱えていって
「これ、あげるにゃ。食べていいにゃよ」
と声をかけると、オスは目を見開いてからリンゴをひとつ、手に取った。
そして味わうように食べた後、もうひとつ、もうひとつ…と食べて、オスは八個のリンゴを平らげた。
「繁殖期以外のオスは狂暴なはずだが…こうも弱っては暴れることもできんのだな…」
ケラーさんが哀れみの目で、モモイロヒヒのオスを見た。
モモイロヒヒのオスは、目に涙を浮かべていた。
モンスター界のDV野郎とはいえ、こんなにも痩せてしまうほどお腹を空かせてるなんて、かわいそうだな…
「森の木の実がならない理由を突き止めてくるにゃ。私たちにできることは、今はそのリンゴをあげることだけなのにゃ…ゴメンにゃ」
私が謝ると、モモイロヒヒのオスは、涙をこぼした。
「さあ、先に進もう」
ケラーさんがそう言って、また私が先頭に立って歩きはじめると、なぜかモモイロヒヒがついてきた。
「道案内してくれるのにゃ?」
私が振り返って尋ねると、オスはうなずいた。
「じゃあ先頭に立ってにゃ!ついてくにゃ!」
私の言葉にうなずいたオスは、私たちの横を通って、先に立って歩き始めた。
そうしてしばらく進むと、森の様子が変わってきた。
「…これはっ…」
ケラーさんがうめいた。
森の中のリンゴの木が、枯れていた。
一本だけじゃない。
あたり一面、枯れたリンゴの木だ。
この世界のリンゴは一年中次々に花を咲かせて、実がなり続ける。
だけど、ここらのリンゴは木が枯れて、花のひとつも見えなかった。
「…なんでこんなことになったんにゃ…」
そう言いながら、私は気づいた。
気温が上がってる。
元々ベリー村の畑のリンゴの木は、森で収穫したリンゴの種から苗を育てたものらしい。
だから、ベリー村とこの森の気候は似てるはずだった。
「むっ…気温が高い…」
ケラーさんも気候の変化に気づいてうなった。
モモイロヒヒのオスは、悲しそうに枯れたリンゴの木を見つめていた。
「ここらにはリンゴの他に、木の実が生る木はないのにゃ?」
と尋ねると、モモイロヒヒのオスは首を横に振った。
「…これは…デッガー火山の影響かもしれぬ…」
ケラーさんが小さな声でつぶやくように言った。
火山の影響。
なら、ベリー村も危ないかもしれない。
私はぞっとした。
「なんとか…なんとかならないにゃ…?!」
私の問いに、ケラーさんは首を横に振った。
「大自然の脅威に、我ら生き物はあらがえぬ…」
ケラーさんがそう言うと、ギルド長も首を横に振って、うつむいた。
「手遅れになる前に、ベリー村は移住した方が良いかもしれん」
ケラーさんの言葉に、私は呆然と立ち尽くした。
あったかくて平和な、ベリー村。
みんなで一生懸命頑張って、豊かになってきたのに…
ネコ戦士はすごいとか強いとか、みんなほめてくれるけど。
大自然を前にすれば、私は、無力だ…
モモイロヒヒは顔だけライオンっぽいゴリラなんですが、痩せてしまうとゴリラっぽく見えませんね…残念。ついでに、今日のネコ報告。ネコが私の膝の上に前脚をつきながら、机の上に後ろ足を置いたままでしっぽを振ったら、コーヒーの中にネコのしっぽが入りました。それでも気にせずそのコーヒーを飲むのが、真のネコバカです。←




