12-3 ネコ戦士、キノコ栽培に挑む
村のみんながそれぞれ用意してくれた桶を荷車に積んで、井戸から桶に水を入れ、ギルド長とカールさんと一緒に、私は村の東門に向かった。
そう雨の多くないこのあたりで湿気を作るには、たくさんの水が必要なんじゃないかと思ったんだけど、水の入った桶はすごく重たいので、私はカールさんと一緒に荷車を引っ張って、坂を登ることにした。
水の入った桶でこんなに重いなら、ツラーオ三頭とか載せたらもっと重たいだろう。
「カールさん、いつもこんな重たいのをひとりで引いてくれてたのにゃ。ありがとにゃ」
そう言ってカールさんを見上げると、
「たいしたことないよ。俺にはモールもツラーオも倒せないから、このぐらいはやらないとな」
と言って、カールさんは笑った。
荷車を引いて高台に登ると、思った通り、そこにフリーザードラゴンがいた。
カールさんは一瞬ビビったけど、
「えーと…凍竜さん?いつもモモちゃんに色々教えてくれて、ありがとうございます!俺たちにも勉強になってます」
とフリーザードラゴンにお礼を言って、頭を下げた。
私がカールさんの言葉を通訳して伝えると、フリーザードラゴンはうなずいた。
ギルド長は深く頭を下げて、フリーザードラゴンの言葉を待っているようだった。
”ネコよ…つらーお?たちが無駄死ににならず、ヒトの救世主になるとは…?”
フリーザードラゴンの言葉に、私はうなずいた。
「ツラーオたちは、自分勝手なヒトにいっぱい殺されて…それは無駄死に以外の何物でもないにゃ。でも、ツラーオたちの体からヒトの命を助ける薬になるキノコが生えるかもしれないにゃ。そのキノコが生えたら、死んだツラーオたちは、ヒトの救世主みたいになるってことにゃ…!」
”…殺された者たちが、ヒトを救う…と申すか?”
フリーザードラゴンが、目を見開いた。
「せっかくお墓作って弔ったのに、それを掘り返すのは私だってイヤにゃよ…辛いにゃよ。でも、もしキノコが生えてヒトが助けられたら…そしたら、ツラーオたちの死は無駄にならないにゃ!!」
私がそう言ったら、カールさんが口を開いた。
「俺たちは、時々モモちゃんが倒してくれるモールやツラーオのおかげで、うまいものを食べられるし、生活も豊かになってきました。モールやツラーオは、骨も皮も全部、俺たちの命を守ってくれてるんです」
そこで言葉を切ってから、カールさんは続けた。
「ひどい…ひどい殺され方をしたせいで、骨も皮も使えなくなったツラーオたちから、ヒトを救うキノコが生えたら、それでヒトが感謝してくれたら、きっとツラーオたちも少しは許してくれるんじゃないかって思うんです…!」
カールさんの言葉を伝えると、フリーザードラゴンはゆっくりとうなずいた。
そして
”ならば、まずは一頭で試すが良い”
そう言ってくれた。
「ありがとにゃ!!ありがとにゃ!!」
私がフリーザードラゴンに何度も頭を下げていると、
「…凍竜様は、なんと仰せに…?」
ギルド長が尋ねてきた。
「まずは一頭で試してみろって言ってくれたにゃ!!」
私の言葉に、ギルド長とカールさんは目を見開いた後、泣き笑いみたいな顔になった。
「凍竜様!!ご温情、誠にありがたく存じます…!!」
「凍竜さん、いや凍竜様、ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
頭を下げる二人を見て、フリーザードラゴンは目を細めて、うなずいた。
私が通訳しなくても、二人の気持ちは伝わったみたいだ。
”もしも一頭からキノコが生えれば、他の者たちで試すことも許そう”
フリーザードラゴンの言葉に、私は飛び上がって喜びそうになったけど、頭を下げてお礼を言うことにした。
「ありがとにゃ…ありがとうございますにゃ…!!キノコが生えるかはまだわからないけど、私たち頑張るにゃ!!」
フリーザードラゴンはうなずいて、その大きな翼を広げた。
カールさんが
「…すっげぇ…きれいだな…」
とつぶやいたので、フリーザードラゴンに伝えたら、フリーザードラゴンはちょっと笑ったみたいだった。
空高く舞い上がっていくフリーザードラゴンを見送りながら、
「ありがとにゃーっ!!」
「ありがとうございます…!!」
「ありがとうございますっ!!」
私たちは、お礼を言い続けた。
一頭のツラーオにキノコが生えたら、他の十一頭でも試していいと言われたということを伝えたら、
「…ならば、何としてでも成功させねばならぬな…」
「うん…凍竜さんがせっかく許してくれたんだからな」
ギルド長とカールさんは、そう言った。
このあたりはあまりたくさん雨が降らないから、湿気を作るためにいっぱい水を持ってきたけど、日陰はない。
「…掘り返して林の中まで連れてくのは、かわいそうだにゃあ…」
私がため息をつくと、カールさんが
「前にファイアドラゴンの骨と皮で広場に倉庫建てただろ?あれと同じようなのを、ツラーオの体を覆うように建てたらどうかな?そしたら日陰になるだろ?」
と提案してくれた。
「それ、いい考えにゃ。モールの骨とかでいけるかにゃ?」
「ああ。モールの骨と皮も結構あるから、持って来よう」
そして私たちは水を積んだ荷車を置いて村に戻り、他の荷車にモールの骨や皮を積んで、大工のエドさんも連れてツラーオのお墓に戻った。
シャベルも持って来て、みんなで少しずつ…ツラーオの体に傷をつけないように土を取り除くと、ツラーオの体が出てきた。
「ごめんにゃ…体、使わせてもらうにゃ…」
私が前脚を合わせてツラーオを拝むと、みんなも手を合わせてツラーオを拝んだ。
キノコは胞子?とかで生えるはずだから、ツラーオの体を倉庫みたいなやつで完全に覆ったら、胞子は飛んできてもツラーオにくっつかないかもしれない。
でも日陰は欲しいし、こまめに水もかけなきゃだろうし…
うんうんとうなっていると、エドさんが言った。
「ツラーオの周りに骨組み建てて、日よけ程度にモールの皮をかぶせりゃいいんじゃないか?そうすりゃ日陰もできるし風も通るだろ?」
「エドさん、頭いいにゃー!!」
「うん、さすがは大工だな!」
「うむ。さすが専門家…だな」
私たちが手放しでほめると
「よせやい。ほめたって何も出ねぇぞ」
エドさんは照れたように笑った。
エドさんの指示通りに、私たちはツラーオを囲う骨組みを建てて、日よけの皮を張った。
そして私が
「ツラーオさん、キノコ生やしてにゃ…病気のヒトたちを助けて下さいにゃ…」
と祈りながら、ツラーオの体に水をかけたら、みんなも私と同じように祈りながら、ツラーオに水をかけた。
するとギルド長が
「先日も今日も、生きたツラーオを全く見かけないが…まさかツラーオは全滅したのか…?」
と言い出したので、私は鼻を上に上げて匂いを嗅いでみた。
「大丈夫にゃ。ツラーオたちは高台のさらに上の方に二十…三十頭ぐらいいるにゃ。オオツラーオ候補みたいなのもいるにゃ」
私の言葉にギルド長は首をかしげた。
「ならば、なぜ我々に近づいてこないのだ?」
「さあにゃ…目に見えない敵から、戦いもせずに仲間がたくさん殺されたから、用心してるのかもしれないにゃ」
と答えると、ギルド長はため息をついた。
「…なるほど、矢による乱獲のせいか…」
「とりあえず、キノコを生やす準備は出来たにゃ。私たちが毎日様子を見に来るから、ギルド長さんは、いったん王都に戻ってにゃ」
「うむ。では私は王都に戻り、知らせを待とう」
そんな会話をしながらみんなでベリー村に戻り、ギルド長は王都に帰って行った。
そしてその後、私はひたすら祈り続けた。
どうか…どうかキノコが生えますように…!!
昨日暑かったので冬物しまって半袖着てたら、今日めっちゃ寒さが戻ってきてしまいました。ネコはネコで、暑かった昨日よりおとなしくなってます。ネコの適温は20度から25度ぐらいってホントだなぁとつくづく思います。




