85/91
プロローグ:星神の沈黙と、旅のはじまり
風が、星の気配を運んでいた。
夜の帳はすでに薄れ、けれど空はまだ、静かに色を変えようとしていた。
息をするたび、かすかな冷気が肺に満ちる。
目を閉じれば、どこか遠くで、名も知らぬ誰かの祈りが聞こえる気がした。
──それは、記憶ではない。
──けれど、たしかに刻まれていた感覚。
名を呼ばれた記憶。
誰かの隣で、声を重ねた記憶。
それが、星の沈黙のなかで、
かすかに、胸の奥を揺らしていた。
まだ、何も決まってはいない。
ただ、 この世界のどこかに、自分の歩くべき道があると、そう感じただけ。
選ばれなくても、選ぶ意志だけはここにある。
──夜が明ける。
その瞬間、少女の目が、静かに開かれた。




