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星を超えて世界を変えた日~星が導くのは、希望か、それとも終焉か。~  作者: 廻野 久彩
第5章 星を蝕む座標

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幕間:観測者たち1──干渉の座標

リグナ=バスト、冒険者ギルド本部地下──その最奥にある封印書架の前で、ギルドマスターのグレイム=ロッシュは、一枚の古びた報告書に指先を滑らせていた。


──召喚痕の安定化傾向。

──異常個体の質的変化。

──術式交差点の“再活性化”。


「……こいつぁ、また面倒な話になってきたな」


呟いた彼の目が、ある報告の文に止まる。


> 『第三環式の逆位重ねが観測された。召喚時座標は、星環域を越えて固定化。』


「……ほぉ。星環座標で固定……それも、揺れねえとなると」


まるで座標そのものが、召喚主を選んでいるかのようだ。そんな予感と共に、彼の思考はある記憶を掘り起こした。


理論魔術再構成計画。


数十年前、魔術ギルドが密かに進めていた危険な仮説。その一端が、かつて不正経路で冒険者ギルドにも流れていたことがある。


(召喚獣との因果リンク……あの頃の連中も、似たような発想だったな)


封印棚の奥から、グレイムは一つの記録を抜き出した。それは、ギルド公式には存在しない“裏記録”だった。


記録コード:YA-04


明らかに不正規な、半欠損のログ。だが、その端にかすれた手書きの記述が残っていた。


──アルヴァ。


「……“Y.A.”……やっぱり、あの時の……」


思わず息を呑んだその瞬間、空間が微かに歪み、灰羽の隼が現れた。灰の羽根を纏い、空に浮かぶその姿は、まるで夢のようだった。


「……あんたか、噂の“隼”ってのは。まさか召喚獣様と話す日が来るとはな。まったく、長生きはするもんだぜ」


グレイムが苦笑まじりに言うと、灰羽の隼は軽く羽ばたいて応じた。


「私はシェルム。観測者にして、語り部。

 主は語らない。ゆえに、私が代わりに伝えよう。

 私は常に、“観測しうる座標”に在る」


無邪気な口調だったが、瞳は鋭く、どこか底知れなかった。


シェルムはふわりと舞い降りると、投影端末の一つを覗き込んだ。


「座標が、ずれているのではない。揺らいでいるのだ。あの娘が“名”を持つがゆえに」


「……名、だと?」


「名を得たとき、魂は震え、観測点は定まる。その瞬間──境界は薄れ、術式の起点は術者ではなく、彼女となる」


「……召喚主じゃなくて、術式の起点が“呼ばれた側”になってるってわけか」


「記録によって説明しようとしても、無意味だ。あれは、“呼んだ”のではない。“応えた”のだ」


沈黙のあと、シェルムはさらりと言葉を落とす。


「あの娘こそが、“干渉の座標”。そして、その起点にほかならない」


その言葉と共に、気配がかき消えた。


──干渉の座標。


呟いたグレイムは、改めて目の前の記録に目を落とす。


“YA-04”──かつて魔術ギルドが封印指定した、危険術式のコード。この記録が示すものが、ユイと同一の存在だとしたら──


「……観測すべきは、こっちだったのかもしれねえな」


彼は静かに記録を閉じた。


名を持つということ。それは、術式の座標をも歪める“因果の起点”となる。


干渉は、すでに始まっているのだ。

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