光の見える方へ
初夏の陽差しが差し込むなか、一行はようやくリグナ=バストのギルド本部へとたどり着いた。
レオンたちは門前で衛兵に名を告げ、グレイムの名を通じてそのまま本部内へと案内される。
受付では、制服姿の女性職員が手際よく登録手続きを進めていた。その横で、ユイはどこか所在なさげに俯いていた。
「レオンさん、無事だったんですね!」
ギルド受付嬢の一人が声をかけてくる。
「ああ。少し面倒があったが……無事だ」
「あら、そちらのお嬢さんは?」
レオンが答えようとしたその時、グレイムが静かに現れた。
「──その件については、こちらで引き取ろう」
重厚なマントを揺らしながら、グレイムが受付の奥から姿を現す。
「お前たち、よく戻ったな。そして……この子が、例の“召喚痕”に関わっていたという少女か?」
「……ああ」
ミリアが一歩前に出て、グレイムに囁くように言う。
「彼女、おそらく……召喚術士、です」
「ほう……」
グレイムの目がわずかに細まった。
「お嬢ちゃん、名前は?」
静かな声に、ユイは少し戸惑いながら答える。
「……ユイ、です」
「姓は?」
「……」
「ふむ。“ユイ”という名は、いつから?」
「……ある人に、そう呼ばれました。でも……それまでは、名もありませんでした」
その言葉に、グレイムの瞳が一瞬だけ動く。
「なるほど。記録上の処理は複雑だが──ひとまず保護対象として仮登録する。個室を一つ。記録班の準備も頼む」
受付嬢が軽く頷き、手際よく端末を操作し始めた。
「では、一時保護の手続きに入ります。皆さんは少しの間、こちらの待機室でお待ちください」
★
ユイが案内されたのは、ギルド本部の一角にある仮設の個室だった。木製の机と椅子、シンプルなベッド。荷物らしい荷物もないその部屋に、ユイはそっと腰を下ろした。
──名を呼ばれたときの、あの震えるような感覚。知らないはずの“なつかしさ”が胸を満たしていく。
(……あの人は、“わたし”によく似ていた。けれど、“わたし”ではなかった)
色は違えど同じ髪質。同じ瞳の形。けれど、それは鏡ではない。
手首に触れる。そこには──うっすらと淡桃色の光が浮かんでいた。
「……どうして、これが……」
その時、扉がノックされた。
「入るわよ」
ミリアだった。
「少し、顔を見に来ただけ。……無理はしてない?」
ユイは小さくうなずいた。
ミリアは何気ないふりで、ユイの手元に目を落とした。
──そのとき。微かにだが、感じた。自分の星神印が、わずかに揺れたような感覚。
(まさか……これ、星神印?)
あり得ない。そんなはずはない。でも、それでも確かに、同じ波動がそこにあった。
「……その、手首の模様。痛んだりしない?」
「……ときどき、少し。でも、昔から。……この印はね、模倣なの。ほんとうの“星神印”じゃない。でも、きっと……名前があったから、残ったんだと思う」
その言葉には、どこか確信めいた響きがあった。まるで、誰かの記憶をなぞるように。
「失われたものは、思い出されることではじめて意味を持つ。だからわたしは──“忘れない”って、決めたの」
何でもないように言ったユイに、ミリアはそれ以上は訊かなかった。
部屋を出るとき、ミリアは小さく呟いた。
「この子には……まだ、選べる未来がある」
★
再び部屋に人の気配が満ちたのは、それからしばらくしてのことだった。
カイルが端末を手に現れ、記録調査の準備を進めている。
「こいつを使うのは久しぶりだな。……さて」
呟きながら、構成術式を立ち上げる。
グレイムも入室し、端的に状況を整理する。
「ここからは、君の術式記録と過去の召喚痕の照合に入る。その結果次第で、君の素性もより明らかになるかもしれない」
「……はい」
ユイは、静かにうなずいた。




