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星を超えて世界を変えた日~星が導くのは、希望か、それとも終焉か。~  作者: 廻野 久彩
第5章 星を蝕む座標

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光の見える方へ

初夏の陽差しが差し込むなか、一行はようやくリグナ=バストのギルド本部へとたどり着いた。


レオンたちは門前で衛兵に名を告げ、グレイムの名を通じてそのまま本部内へと案内される。


受付では、制服姿の女性職員が手際よく登録手続きを進めていた。その横で、ユイはどこか所在なさげに俯いていた。


「レオンさん、無事だったんですね!」


ギルド受付嬢の一人が声をかけてくる。


「ああ。少し面倒があったが……無事だ」


「あら、そちらのお嬢さんは?」


レオンが答えようとしたその時、グレイムが静かに現れた。


「──その件については、こちらで引き取ろう」


重厚なマントを揺らしながら、グレイムが受付の奥から姿を現す。


「お前たち、よく戻ったな。そして……この子が、例の“召喚痕”に関わっていたという少女か?」


「……ああ」


ミリアが一歩前に出て、グレイムに囁くように言う。


「彼女、おそらく……召喚術士、です」


「ほう……」


グレイムの目がわずかに細まった。


「お嬢ちゃん、名前は?」


静かな声に、ユイは少し戸惑いながら答える。


「……ユイ、です」


「姓は?」


「……」


「ふむ。“ユイ”という名は、いつから?」


「……ある人に、そう呼ばれました。でも……それまでは、名もありませんでした」


その言葉に、グレイムの瞳が一瞬だけ動く。


「なるほど。記録上の処理は複雑だが──ひとまず保護対象として仮登録する。個室を一つ。記録班の準備も頼む」


受付嬢が軽く頷き、手際よく端末を操作し始めた。


「では、一時保護の手続きに入ります。皆さんは少しの間、こちらの待機室でお待ちください」



ユイが案内されたのは、ギルド本部の一角にある仮設の個室だった。木製の机と椅子、シンプルなベッド。荷物らしい荷物もないその部屋に、ユイはそっと腰を下ろした。


──名を呼ばれたときの、あの震えるような感覚。知らないはずの“なつかしさ”が胸を満たしていく。


(……あの人は、“わたし”によく似ていた。けれど、“わたし”ではなかった)


色は違えど同じ髪質。同じ瞳の形。けれど、それは鏡ではない。


手首に触れる。そこには──うっすらと淡桃色の光が浮かんでいた。


「……どうして、これが……」


その時、扉がノックされた。


「入るわよ」


ミリアだった。


「少し、顔を見に来ただけ。……無理はしてない?」


ユイは小さくうなずいた。


ミリアは何気ないふりで、ユイの手元に目を落とした。


──そのとき。微かにだが、感じた。自分の星神印が、わずかに揺れたような感覚。


(まさか……これ、星神印?)


あり得ない。そんなはずはない。でも、それでも確かに、同じ波動がそこにあった。


「……その、手首の模様。痛んだりしない?」


「……ときどき、少し。でも、昔から。……この印はね、模倣なの。ほんとうの“星神印”じゃない。でも、きっと……名前があったから、残ったんだと思う」


その言葉には、どこか確信めいた響きがあった。まるで、誰かの記憶をなぞるように。


「失われたものは、思い出されることではじめて意味を持つ。だからわたしは──“忘れない”って、決めたの」


何でもないように言ったユイに、ミリアはそれ以上は訊かなかった。


部屋を出るとき、ミリアは小さく呟いた。


「この子には……まだ、選べる未来がある」



再び部屋に人の気配が満ちたのは、それからしばらくしてのことだった。


カイルが端末を手に現れ、記録調査の準備を進めている。


「こいつを使うのは久しぶりだな。……さて」


呟きながら、構成術式を立ち上げる。


グレイムも入室し、端的に状況を整理する。


「ここからは、君の術式記録と過去の召喚痕の照合に入る。その結果次第で、君の素性もより明らかになるかもしれない」


「……はい」


ユイは、静かにうなずいた。

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