沈黙の記憶たち4:レオン=グランヴェール
夜の帳が降りて、焚き火の残り火が、かすかに明滅している。仲間たちが順に語った過去の記憶も、今は静かに夜に沈んでいた。
レオンはただ、火を見つめて、思い出していた。
誰かのために剣を振るう。その意味を、あの頃の自分は、まだ知らなかったのかもしれない。
「剣士としての資質は申し分ない。だが、お前のその性格では──」
かつての上官の声が、耳の奥にこだまする。
王国騎士団。
その制服に袖を通したとき、自分は“誇り”を得たと思っていた。星神を奉じ、民を護る。その理想のための剣だと信じていた。
だが、現実は違った。命令に従うことが正義だった。それが、どれほど理不尽であっても。
「民を見捨てて、撤退せよ」
「魔力障壁の外にいる者は、既に切り捨て対象だ」
そのたびに、自分は命令を破った。剣を振るい、助けに走った。
「お前は間違っていない」
そう言ってくれる仲間もいた。けれど、星神の名を掲げる組織にとって、それは“異端”だった。
──そして、最後の日。
あの玉座の間に、彼女の姿はなかった。
「星神教会代表、セシリア=ルクシア殿は療養中のため、本裁定には欠席となる」
その声を聞いた瞬間──確かに、胸の奥が揺れた。驚く者はいなかった。ただ、自分だけが、その不在に目を伏せた。
(セシリア……)
期待はしていなかった──はずだった。けれど、ほんの少しでも、彼女が何かを言ってくれるかもしれないと。そんな甘さが、自分の中に残っていたことに気づいてしまった。
それが、何よりも堪えた。
焚き火の灯が、ゆらゆらと揺れている。
星は静かだった。その沈黙に、どこか、似ていると思った。
今、彼女はどこにいるのだろう。王都のどこかで、空を見上げているのだろうか。
それとも──
(どうか、笑っていてくれ。あの頃みたいに)
あのやわらかな微笑みを、もう一度見ることができたなら。
声に出すことはなかった。けれど、祈るようにそう思った。どこかで、まだ──あの光を失っていないことを。
火がはぜた音に、思考が途切れる。
気づけば、仲間たちは皆、眠りについていた。その寝顔をひとつひとつ見渡し、レオンはゆっくりと目を閉じた。
(今は、信じている。この剣を──この仲間を)
風がそっと吹き抜け、夜の静寂が幕を下ろす。沈黙の記憶は、今、静かに次の朝を待っていた。




