沈黙の記憶たち2:ライナ=フェリル
夜の野営地で、焚き火の炎が、静かに揺れている。
ミリアの語りが終わったあと、しばしの沈黙が流れた。誰も言葉を発さず、ただ薪のはぜる音が夜気に溶けていく。
「──ねえ、さっきの話。ちょっと、アタシも乗っかっていい?」
沈黙を破ったのは、ライナだった。
膝を抱えるようにして焚き火を見つめていた彼女が、ぽつりと口を開く。
「前にレオンとカイルには話したんだけどね、アタシさ、騎士団の補助訓練にいたことがあるの。まだ十歳になるかならないかくらいの頃」
「……補助訓練に?」
驚いたように問うミリアに、ライナは小さくうなずく。
「正式な訓練兵じゃなくて、あくまで補助枠ね。素養がありそうな子が集まって、剣の素振りとか、基礎体力とか、そういうのだけ。でも、あの頃のアタシには、それでも嬉しかった。剣を持つってだけで、世界が広がった気がして」
淡く微笑む。だがその表情に、どこか影が差した。
「でもさ。ある日、唐突に言われたの。“やっぱり不適格だ”って」
言葉を切り、少しだけ目を伏せる。
「剣の素養がない、なんて、そんな“理由”なんて、後づけだよ。本当は知ってた。──アタシが“混じってる”からだって」
レオンも、ミリアも、カイルも、何も言わない。ただ静かに、彼女の言葉を待っていた。
「父さんは人族で、母さんは獣人、リシアン族だった。耳や尻尾こそ出てないけど、混血ってだけで“汚れてる”って。影でそう言われてたんだ」
炎がぱちりと音を立てた。
ライナの声は淡々としているのに、その奥に潜む悔しさが、静かに伝わってくる。
「父さんは冒険者でね、母さんとパーティを組んでたんだって。でも、父さんはアタシが産まれるからって張り切って、昇格のためにちょっと無理な依頼を受けちゃってね、それで……。母さんは、アタシを一人で育てて、すごく大事にしてくれたけど、その母さんも、病気で早くに亡くなってさ。だから騎士団に入ったのも、誰かに認められたくて……。“普通になりたかった”んだと思う」
誰にも頼らず、ひとりで強くなれると思っていた。けれど、理不尽な現実は、幼い心に容赦なく突き刺さった。
「結局、居場所なんてなかった。でも──アタシにも何かできるんじゃないかって、冒険者になったんだ」
そう言って、ライナは右手を掲げる。
装着された銀色の爪──彼女の武器が、焚き火の光を反射して鈍く光る。
「この“爪”、アタシにはすごく合ってると思ってる。小回り利くし、足技との相性もいいし、なにより……」
言葉を止め、いたずらっぽく笑う。
「カッコいいでしょ?これで戦ってると、自分がちゃんと“剣士”になれた気がするんだ」
その笑顔に、レオンが静かにうなずき、カイルはそっと目を細める。
ミリアは焚き火越しに、そっと言葉をかけた。
「ライナ。あなたは、もうちゃんと剣士よ。誇っていいわ」
「うん。……ありがと」
ライナの声は、どこか照れくさそうで、それでも満ち足りていた。
──闇夜に、爪の光が、静かに揺れていた。




