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星を超えて世界を変えた日~星が導くのは、希望か、それとも終焉か。~  作者: 廻野 久彩
第5章 星を蝕む座標

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沈黙の記憶たち1:ミリア=ルヴェール

夜の野営地で、焚き火の炎が、ぱちりと音を立てた。


「ねえ、ミリアってさ」


ライナが口火を切る。空を見上げたまま、気軽な調子で言った。


「教会から離れたってギルマスが言ってたけど──」


ミリアは少しだけ動きを止めた。だが、すぐに顔を上げる。


「あ、言いたくなかったらいいんだけど!無理に聞きたいとかじゃなくて……その、ほら、仲間だし?」


慌てて両手を振るライナに、ミリアはふっと笑った。


「ううん、いいの。むしろ、皆には聞いてほしかったのかもしれない」


火を見つめながら、ミリアは語りはじめる。


「私はね、星神教会系の名門に生まれたの。ルヴェール家は、星神庁直属の聖職家系よ。末娘の私は星神印があって、幼い頃から星神に仕える巫女として育てられて、将来的には"聖女"になることを期待されていたの」


声に怒りはない。ただ、遠い記憶を辿るような、静かな口調。


「星神印・・・?」


「ええ。ライナは、星神三柱ってわかるかしら?」


「えっと・・・、あすとれあ?様?の名前は聞いたことあるよ!」


「星光を司るアストレア様、知を司るアエラ様、時を司るアグニア様よ。お三方のことを星神三柱として、星神教会は信仰の基盤にしてるの。星神印っていうのは、星神三柱から加護を受けたものに刻まれた印のこと」


「へええ。じゃあミリアは、星神三柱からの加護があるってこと?すごい!」


「私はアエラ様の加護をいただいているわ。星神印があることもあって、小さな頃から人一倍信仰深かったのよ」


「ねえ、星神印って……いろんな人が持ってるものなの?」


「多くはないわ。私が知っているのは3人だけ」


「そんなに少ないの!?」


「ええ。……聖女であるセシリア様もお持ちよ。アストレア様の加護。完全な形の印としては、私の知る限り唯一ね」


「完全な形……?」


「詳しくはまた話すわ」


ミリアは小さく首を振り、視線を火に戻した。


「……ずっと、信じてた。星神は救いを与える。祈りは、誰かの命を繋ぐものだって。でも──ある時から、それが信じられなくなったの」


ミリアの瞳が、微かに揺れる。


「形式化された祈り。決められた儀式。誰かが苦しんでいても、"順序"を守らなければならない。そういう現場が、増えていって……」


「……我慢できなかったんだね」


ライナがぽつりと言った。ミリアは小さくうなずいた。


「災害救助のときだった。助けを求めていた女の子がいたのに、上からの命令は"神殿の安全を優先せよ"って。でも……無視した。私、一人で彼女を助けに走ったの」


その時の熱が、まだ手に残っている気がした。


「結局、その判断で……他の巫女の一人が負傷してしまった。彼女は今も、癒しの殿堂で回復中なの」


「ミリア……」


「処分は保留だった。『謹慎』という形で、領地に戻されただけ。でももうその頃にはわかってたわ。私は、聖女に……"器"にはなれないんだって」


火の粉が、ひとつ、はぜた。


「……兄がいたの。セオドアって名前よ。兄はね、星神庁に勤めていたの。でも急にいなくなってしまって。私、兄のこと、ずっと許せなかった。家族を、役目を、全部投げ捨てて、勝手にいなくなった人だと思ってたから。でも、領地に戻されたとき、家に残ってた兄の手帳を見つけて、初めて開いたの」


「文面はほとんど、読めない"暗号"で綴られてた。まるで誰かに知られるのを防ぐように、複雑に符号化されてて。……でも、唯一、私に読めた言葉があった」


カイルの眉がぴくりと動く。


「暗号……」


小さな呟きだったが、ミリアにははっきりと聞こえた。


「"リグナ=バスト"──」


ミリアは焚き火の向こうにいたカイルに視線を送った。


「手帳を見て、思ったの。兄は、ただいなくなったわけじゃない。何かを守るために、姿を消したんじゃないかって。だから私は、兄の足跡を追ってリグナ=バストを目指した。でも、いまだに他の記述は読み解けないまま。……もしかしたら、本当に重要なことが隠されているのかもしれないのに」


カイルは何も言わなかった。けれど、視線はまっすぐにミリアに向けられていた。


「星神のためでも、家のためでもない。誰かを助けたいと思う、その"自分の気持ち"を信じて、生きていたい。……それが、今の私よ」


夜風が吹き抜け、焚き火の炎が揺れた。


しばらく沈黙が落ちたあと──


「ミリア。……立派だと思うよ」


ライナの声は、あくまで柔らかく、まっすぐだった。



──兄様。


もし、あなたが最後に託した"あの手帳"に、誰かへの祈りが綴られているのだとしたら。


私はもう、ひとりで抱えるつもりはない。


あの人なら……カイルなら、きっと、読み解いてくれるはず。無骨で、口数が少なくて、でも誰よりも、世界の仕組みを信じているから。


もう少しだけ、勇気が要るけど。


その時が来たら、ちゃんと話す。この記録のことも、兄様のことも、私自身のことも。

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