表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星を超えて世界を変えた日~星が導くのは、希望か、それとも終焉か。~  作者: 廻野 久彩
第5章 星を蝕む座標

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/91

名もなき少女1:招かれざる者

──風が、変わった。


樹海の奥、夏の陽光が木々を縫って揺れる静寂の中。名もなき隊の五人は、かすかな異変に気づきながら、緩やかな尾根道を進んでいた。


空は晴れている。だが、鳥は鳴かず、獣の気配もない。


「妙だな……」


先頭を行くカイルが呟く。長身を軽くかがめ、草むらに目を走らせた。


「この辺、前に来たときはもっと――騒がしかった」


「足跡も、爪痕も、薄い。……気配が、消えてるわ」


ミリアの声は低く、鋭かった。腰に手を当てたまま、周囲に張り詰めた気配を探るように、目を細める。


その姿に、レオンは無言で頷いた。


この一帯は、三日前に近くの村で報告された“異常個体の目撃情報”を受けて、調査対象となっていた場所だ。通常の魔獣なら、気配を消すことなどできない。あくまで野生の範疇にある存在。だが、“異常個体”は、違う。


突如として現れ、言葉もなく襲いかかり、倒してもその構造すら解明できない。《クレクナス》──あの“進化型”と戦った時の感触が、まだ身体の奥に残っている。


(……きっとまた、出る)


レオンはそっと腰の剣に手をかける。

そのときだった。


「レオン!」


ライナの叫び声と同時、空気が裂けた。


右斜め前方、茂みの中から“何か”が飛び出した。見えない爪。透明な牙。音もなく迫る“質量”が、ライナを襲う。


レオンは即座に飛び込んだ。剣を抜き──


「《双月斬》──!」


身を挺してその軌道を叩き斬る。

斬撃。手応えは……ない。だが空間が“軋んだ”。


「何だ、今のは……」


ライナが素早く身を引き、カイルが即座に援護に入る。樹々の陰から、別の気配が──いや、目視できないままこちらをうかがっている。


「透明化か、擬態か……?いや、それだけじゃない。動きが速すぎる」


ミリアが杖の先を地に当て、すっと空間を見据える。


「複数……三、ううん、四。囲まれてるわ」


耳元で、葉が揺れる音がした。風のような気配。

何かがすぐそばをすり抜けた。


「退避!」


レオンの指示が飛ぶ。瞬間、四人が一斉に動いた。視えない敵から一度距離を取り、開けた斜面へと退却する。


相手は追ってこない。ただ、木々の影から“見ている”。


その視線が、ただの狩猟ではないことを、レオンは直感で理解していた。


「……見られてる」


誰かが呟いた。


ミリアか。あるいは、自分自身か。


そうして、一行は木漏れ日の下に戻ってきた。

息を整える間もなく、カイルが言う。


「あれが群れだったら、次は全滅だな……。《閃紋破シークエンス・ブレイカー》が間に合わなかった」


その手には、解析用術式端末が薄く輝いていた。


「……なら、先に見つけるしかない」


レオンは短く返した。


「こっちが、“狩る側”になるんだ」


静寂が、返ってくる。

だがその沈黙の奥に、何かが潜んでいる。


風がざわめいた。


枝が揺れ、遠くで何かが、こちらを見ていた。


姿はない。ただ、確かに存在している。

空気の裂け目のように、風がひとつ、そこに“招かれざる者”の痕跡を残していた。



そして、誰も気づかぬ森のさらに奥。


影のような瞳が、そっと瞬いた。


──「観察完了。無断接近者、想定範囲内」

──「主。次の命令を」


応えは、ない。


だがその少女は、遠くから“その背中”を見ていた。

言葉もなく、ただその視線に、揺れる気配だけがあった。


風に乗せて、ただ、見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ