灰色の毛玉
そうと決まれば状況を整理してみる。
まずはこの白い箱だが見かけとは違い思ったよりも軽く、石のような物でできているようだ。僕の力でもなんとか頭で押せば、少しずつだが箱の蓋を動かすことができそうだ。どうやら鍵もかかっていないようだ?
僕でも逃げだそうと思えば逃げだせる。こんなお粗末すぎる方法を取るなんて…
ひょっとして父のことだから、いつも気弱な僕は逃げさず箱の中に贄としておとなしく留まっていると考えたのかもしれない。もし仮に逃げだしたとしても洞窟は迷路のように入り組んでいる。子供の力では厳しい冬を乗り越え生き残ることなどできはしないだろうと高をくくっているのだ。
それなら動きを封じるための戒めは、箱に入れられるときに後ろで両手を縄で縛られたくらいか。こんな状況でもその気になれば箱の外には出られそうだ。
僕は、沸々と怒りのような感情が沸き上がってくるのを感じていた。
――それなら、一族の掟にとことん逆らってみよう。
ただ言われるままに贄として死を迎えるのではなく、一族に逆らい自分の意志で生きて見せる――僕は、生まれて初めて自分の意志で行動しようと決めたのだ。
どうせじっとしていても死を迎えるだけだし、最悪魔物だったら…がぶっと食べられてそれでおしまい。
けど、本当に動物が助けを求めているのなら、自分に助けられるかは正直わからないけど…最後ぐらい善い行いをして、死を迎えてもいいんじゃないか。
これはただの自己満足でしかない。それは十分わかってはいる。全ては自分の責任で行動することだ。だから後悔はない。
僕は頭で白い箱の蓋を持ち上げると、時間をかけながら少しずつ横にずらしていく。
ある程度の空間ができたら今度は一緒に入れられているお供え物の袋を足で少しずつ移動させる。袋にある程度の高さができたらそれを足場にして、勢いをつけ何度か芋虫のように跳び上がると箱の外に出ることに成功したのだ。
背中からの着地になったがある程度の痛みは予想通り。勢いのまましばらく芋虫のように転がっていたが、やがて洞窟の壁に当たって止まる。
ちょっと腰が痛いくらいと、あっちこっち擦り傷だできたぐらいで済んでよかった。
洞窟の壁を背に立ち上がると、近くにあった大きめの氷柱で手首の縄を少しずつ切っていく。さすがにこれ以上の怪我はしたくないので慎重に縄の戒めを切っていったのだ。
やがてプチっと小さな音と共に縄が切れると久しぶりに両腕が自由になる。しばらく手首を擦ったり、腕を回したりしてほぐしていく。
ある程度落ちついたらもう一度、耳を澄ませ。
――キャウ……キャウ……
大丈夫。まだ鳴き声は聞こえている。
胸を撫で下ろすと、あらためて目をつぶり、この鳴き声がどこから聞こえるの耳を澄ませたのだ。聴覚を頼りに洞窟の中を歩き回っていると、やがてある空間にたどり着いたのだ。
そこには灰色の毛玉のような…? いや、灰色の子犬が丸くなっていたのだ。




