思案に暮れるシュナ
ミケーネ山にはいくつもの天然の洞窟がある。
そのうちの幾つかは、狩猟の時期に寝泊まりをしたり貯蔵庫して使われているものもある。しかし大半は氷の裂け目が多く危険だということ、それに瘴気が濃く魔物の巣になっている可能性が高いため立ち入ることは禁じられていた。
――古の神を祀る祭壇の間は、そんな危険だと言われている洞窟の一つにあった。
そこは冬至の日にだけに立ち入ることが許された場所。神の祭壇がある洞窟の内部は幾重にも道が分かれていて迷宮のような構造になっている。
雪山を登り、神の祭壇のある洞窟の入口に着いたとき僕は目隠しをされ祭壇の間まで長い道のりを歩かされた。おそらく祭壇の間から万が一、僕が逃げ出しても簡単に外に逃がさないための対策なのだろう。もし、運よく逃げだせたとしても極寒の雪山のなかで、僕がたった一人で生きていけるとも思えないが…
そんなことを考えていると、ふいに両脇の腕を掴まれたのだ。気がつけば大人が一人ずつ僕の左右の腕をがっちりとつかみ、歩くような格好になっていた。道幅が広いからできることなのだろう。幸いなことに、これなら目隠しをしていてもつまずいて倒れる心配もない。
村を出て洞窟に入ってからも、先頭を歩いている長である父はただ黙々と歩いていた。順路を熟知しているようで、その歩みに迷いはないようだ。
もちろん僕に対する気遣いも、投げかける言葉もなにひとつ無い。期待はしていなかったけどやっぱり、心にぽっかり穴が開いたように虚しく寂しい気持ちになるものだ。
しばらく黙々とただ歩き続けているだけだったが、ふいに歩みが止まる。どうやら祭壇の間に着いたみたいだ。目隠しをとかれると周りの風景が少しずつだが見えてくる。
そこは大きな空間のようで、真っ白な石で造られた小さな祭壇とその下には供物を納める箱のようなものが置かれていた。祭壇には文字らしきものが刻まれていたがそれ以外は簡素な造りのようだ。
僕を連れてきた長である父を含めた一族数人の大人たちは、供物を納める箱の中に僕を入れると足早に去っていった。もちろん逃げられないように今度は縄で、両手首を後ろで縛ってからである。
そして――誰もいない洞窟の中は静寂に包まれていた。
深い静けさが波だった心を落ち着かせてくれる。今はただ古の神が現われるのを待つばかりだ。死を覚悟した人間はこんなにも静かな気持ちになるのかと自分でも驚いていた。
けど――いくら待っても静かな時間が流れているだけ。外に出られないから正確な時間すらわからないけど、半日ぐらいたったのかもしれない。
おかしいな…。どんなに待っても、なにも現われる気配などない。ひょっとして言い伝えはただの迷信なのかもしれない。
だとしたら、このまま凍えて死を迎えるか、魔物の餌になるだけかもしれないな。そんな疑念と何とも言えない不安が心に浮かんできた時だった。
「キャウ…キャウ……」
遠くで微かだが、動物の鳴き声がしたのだ。




